SOUL
3(R15)
 疲労やら何やらで急激な眠気を感じるのは気力で抑え、刀の柄に片手を這わせた。
「──てめェ一体どういう了見だ。返答次第によっちゃァ叩き斬るぜェ」
「そうカッカするな、体に悪いぞ」
 少々の断食は体にいいとはきくが、それは液体だけ摂取しているものを指すそうだ。水すら飲めぬ状況に高杉を置き去りにした桂に健康を語られたくはない。
「──貴様が足元を掬われそうだと見てとったのだ。死なせるのは忍びない故、保護しようかと」
「…つまり、あの狸──じゃねェ、アイツにゃァ俺が割れていたってェのか」
「無論。俺にまで、あの高杉が自ら罠にかかろうとする噂が届いた」
 道理であの男はいやにアッサリおちたと思った。
 だが、高杉とてまるきりの無策で懐に潜ろうとしていた訳ではない。もし、下手を打って捕らわれたとしても、それに狸が少しでも絡んでいたなら高杉の危険はなかった。鬼兵隊で、そういった際の対応は確認できていたのだから。
 変に桂がしゃしゃり出て来たせいで、鬼兵隊の面々は誰もここまでたどり着かず、それ故に高杉は死にそうなほどの渇きと飢えに苛まれたのだ。
「──てめェは幾松と乳繰り合っているくせに。なんだって俺のヤマに首突っ込んできやがった」
 桂の柳眉が寄せられる。意図しない女の名が滑り出た高杉もまた小さく舌を打った。桂はゆっくり、表情を和らげる。
「貴様、さては妬いておるのか」
 そうなのだろうか。違う気もする。
 いや、発端は悋気だったかもしれない。でも今は、そんなことどうでもいいくらいに腹が立っている。
 刹那言葉に詰まり、頭の中で様々な思いがぐるぐると渦を巻く。その隙にすっかり気を良くした桂に抱き締められた。
「愛いな。俺が如何に貴様を慕っているか、その身に知らせてやろう」
 押し倒されても抵抗する気にもならなかった。ただ、喜んだ桂が、幾松との関係について明言しなかったことだけが、胸の奥にいつまでも引っ掛かり、疼いていた。


2017.8.10.永


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