SOUL
2(R15)
 ──なんて、言葉くらいで。趣味の悪い出逢い茶屋で一人待つほど粋でないことはない。それでも、待ってしまうのは。高杉があの男に惹かれているからに他ならず──しかし、数時間、けばけばしい布団を一人温めていると段々腹が立ってきた。
 何故、この自分がこんなところで一人時を過ごさねばならないのだ。そう思うとこれ以上孤閨を温めていられず腰を上げる。
 その勢いのまま出て行こう、としたそのとき。
 入口が向こうから開かれた。
 途端鼻をつく香水と酒と煙草の入り混じった香りに眉が寄る。
 浮かれたアホが声を上げ、嬉しそうに抱き付いてきた。
「まさか出迎えてくれるとは思わなかったぞ。待たせたな、高杉!」
 女物の衣服に身を包み化粧の濃い桂は夜の街に華咲く女そのもので、幼馴染みのあの男であるなどと認めたくない。
「──臭ェ」
 高杉は低く唸って彼の肩を押しやった、しかし酒が入ってもいるらしい桂には通じない。
「わははは、そう照れるでない」
「照れてねー…──」
 強引に重なった唇はなにやらべとついていて、どうやら毒々しい色を擦り付けられているらしい。この唇で数多の男に耳障りのいいことを囁いていたかと思うと吐き気すら込み上げて、乱暴に腹を殴る、と唇こそ離れたものの腰に縋るように抱き付かれ下肢が寄せられた。女物の鮮やかな柄の着物が触れ合い、彼の‘女’らしからぬ高鳴りを擦り付けられて息を飲んだ。
「──客にでも煽られてやがったのか」
 殊更に眉を顰めてみても、殺したはずの恋情の残滓が邪魔をする。潤む瞳を見られたくなくて右目をぎゅっと閉ざした。
「客に尻をいくら揉まれようとも嫌悪以外に何も芽生えぬが、貴様の狂った瞳には股間が高鳴る」
 冷静に考えたら、どこをどうとってもときめかない口説き文句だ。なのに、こんな無駄に女装の似合う彼に言われただけで腹立たしいほどに鼓動が速まる。男だか女だかすらよくわからない外見で、アウトローへ突っ込んでいっているくせに、股間の逸物は今もなんとか保持しているらしいことにも、悔しいけれど安堵する。
 高杉は桂の股間へ無遠慮に手を這わせ、少し高い位置にある瞳を睨み上げた。


2016.8.10.永


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