SOUL
3
 見回り中に小耳に挟んだ、清流の噂。夜になればこんな江戸の街の片隅で蛍が飛び交うのだと聞いた瞬間、アイツが好きそうだな、と思った。育ちのいい彼は、存外に綺麗なものが好きだと知る程度には付き合いは深かった。
 案の定、ゴリラのくせに粋なことを、などと失礼なことを吐くくせに。渋々付き合ってやっているのだと装おうとしているくせに。その足取りはどことなく浮き足立っている。その喜びっぷりに近藤は逆に冷や汗が滲んだ。
 噂は聞いた。しかし、自分の目で確認はしていない。蛍がいなかったらどうしよう。そろそろ丑三つ時になろうという今、蛍がいても活動していなかったらどうしよう。彼の落胆は並大抵ではないだろう。臍を曲げてしまうかもしれない。なにしろ、不機嫌になって近藤の頬を張り二度と連絡を取らせてくれぬ女達よりも、気を損ねた高杉は、ある意味ではよほど扱い辛いのだ。まァ、つかず離れず不機嫌アピールをしてくるというのは、なんだかんだいって彼が近藤を好いている証のひとつで、ただの甘えであるのだろうけれど。
 半時ばかり夜の街を歩かせてようやっと辿り着いた流れには、果たして蛍はいてくれた。水面に青白い光をちらつかせ飛び交うそれらを眺める高杉は本当に楽しそうで、近藤はやっと安堵し、そっと彼の手に触れた。


2014.9.4.永


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あきゅろす。
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