SOUL
格子のない檻(R15)
 少々手子摺らせてくれたものの、鬼兵隊は真選組局長拉致に成功した。
 高杉は船の最下部に設えた六畳ほどの殺風景な一室、薄暗い白色灯に照らされたコンクリートの床に大の字に括り付けた男を見下ろし、口角を吊り上げる。近藤が目覚める気配はない。
 腕のたつ彼を無傷で抑えることはさすがに出来なかったため、血止めだけはした彼の左腕からは鉄の匂いが漂っていて、高杉はそっと生唾を飲み下した。
「──晋助」
「下がっていろ、俺の玩具だ」
 河上は黙って高杉を眺め、小さく肩を竦めて踵を返した。
 鉄扉が閉ざされる。
 彼が鍵を掛けず行ってしまったそこは、河上の背が見えなくなるとまた自然にゆっくりと開いた。
 高杉は強制的に眠らされ、規則正しく腹式呼吸を繰り返すばかりの近藤を一瞥し、重い扉をしめなおした。内側から鍵をかけ、入り口の脇に目の高さまで垂れ下がる縄を掴む。ぐいと引いた瞬間、天井から近藤に数Lの水がぶちまけられた。
「っ…!?」
 びくん、と大きく身を震わせ近藤の瞼が持ち上がる。
 濡れ鼠になって、俄かにできた水溜まりの中心に横たわった彼は、数度ぱち、ぱちと瞬いた。
「おはようさん」
 近藤の瞳に光が灯った。
「高杉ッ…」
 ゆったりと彼に歩み寄る。床に広がった水が微かな音を立てた。
「気分はどうだい?」
 クク、と肩を震わせ、懐から取り出した煙管をくわえる。葉を詰め、そっと火をつけた。
「訊かねーでもわかるだろう──最悪、だ」
 にやりと近藤の唇が歪み、つよい瞳が高杉を見据えた。僅かみじろいだ彼の両手足を縛る鎖が、微かな音をたてる。
「そりゃァ残念。俺ァ最高なんだが」
 視線が交わる。天井から先程の名残の水が数滴、近藤へ落ちた。


2013.8.10.永


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