SOUL
14(R15)
「──高杉」
 木賃宿の煎餅布団にそっと高杉を寝かせ、厠の手水に濡らした布で体を清めてやる。
 彼は子供がむずかるように力無く桂の手を払おうとしたが、強い抵抗はなかった。
 腹を呼吸に合わせゆっくり上下させ、茫洋と天井を見つめる。素肌を晒したままの彼に薄い掛布を被せ、乱れた包帯をなぞった。
「痛むか」
 高杉の右目が眇められ、ふいと顔を右に向ける。たったそれだけで、彼の表情は無粋な布に隠された。
「──ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ」
「俺ァこの、腐りきった世界が──気に食わねェ」
 低く漏れた呟きは、獣の唸りに似ていた。
 桂はそっと濡れた布を置き、高杉の顔の両脇に手をついた。
 薄明るくなってきた街から差し込む仄かな光が、毒々しいほどに紅い高杉の唇を鮮やかに際立たせる。
「高杉」
「俺ァ、先生を奪った世界に思い知らせてやるのさ」
「高杉。俺を見てほざくがよい」
 高杉の唇がぎゅうと一文字に引き結ばれた。
 ゆるゆると顎を上げ、桂を睨む。
 憎しみに彩られた瞳と、それをくるむ涙の被膜に桂は息を震わせた、直後徐に上げられた手が高杉に落ち掛かる黒髪を掴んだ。と思うと力一杯引かれ、つい包帯に頭突きを噛ましてしまう。


2013.7.31.永


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あきゅろす。
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