SOUL
9(R15)
 顔の利く木賃宿に通常より多い額を渡し匿ってもらい、宛てがわれた半地下の一室で互いにもどかしく編み笠を外し正面から高杉を抱き締めた。
 舶来だろう刻み煙草の匂いはかつての彼にはなかったものだけれど、その派手な着物にはよく似合っていた。
 天井付近に細く開いた街路に面する障子から、足音が聞こえる。まだ諦めてはいないらしい。
 高杉の左の首の付け根に鼻先を押し付け、彼の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「くすぐってェ…」
 高杉は僅か腰を捩って頬に纏わる桂の髪を引っ張るが、満更でもないらしい。黒髪を指に絡め弄んでいる。
 虚無僧スタイルで緩く括った髪紐が解け、微かな音させ畳に落ちた。
「──高杉」
 髪の根にズキズキ響く痛みの返礼に、どくどく唇を打つ彼の頸動脈に歯を立てた。
 皮膚の破れぬ程度に加減して型を残し、拍動を舌で感じとる。ふるり、と高杉の背が震えた。
 髪を持つ手にぎゅうと力がこもり、痛みが少し和らいだ。
「ヅラァ…」
 甘く上擦った吐息が耳を嬲った。
 昔から意見が合わず、幾度となく衝突を繰り返した男だが。こんなときだけは可愛らしいと思う。
 桂はちらりと高杉に視線を投げた。しかし包帯に阻まれ彼の表情は窺えない。それが気に食わず腰と頭を抱き寄せ畳に押し倒した。
 瞬間息を詰めた高杉は視線を窓に投げ、ククッと笑った。
「奴らがてめェを探してやがるぜェ」
「知っておる」
 桂はちらりと高杉の視線をなぞり、窓の障子にちらつく面白くもない影に軽く顎を引いた。


2013.7.16.永


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