SOUL
13
 桂は、たとえ指名手配犯の攘夷志士であっても、どこまでも正道を行くらしい。大統領なんかになってしまった彼は、堂々としたやり方で国を変えようとしている。高杉と違って真っ直ぐに突き進む迷いのない姿は眩しく、それでいて陽の当たるところを歩いてくれていることが誇らしい。何より、政治家なんて公私共に堂々とした職に就いていてくれたら、高杉が桂を探す必要もない。わざわざ前に姿を現さずとも動向は耳に入り、所在がはっきりしている。彼を見たいと思えばテレビをつければいいなんて、以前とは比べ物にならない素晴らしい環境だ。彼はもう、モザイクも鼻眼鏡も必要なくテレビに映り、喋ることができる。昔から頭だけは良かったから、表の部分は安心して彼に委ねてしまうことができるのだ。共に戦った鬼兵隊の面々は大打撃を受け、いよいよ天導衆に手が届こうかというときには、銀時と共に行くことになったのはいっそ皮肉だ。だが、桂が信じた男にならば背中を任せることができると考えれば普段の言動が如何に腹立たしい男であっても我慢できる。それに、日常の言動が高杉の神経を逆撫でするきらいはあっても、実際のところ高杉は銀時を信用していた。それは、桂が銀時を信じているのと変わらぬくらいに。久々に肩を並べ共にターミナルをかけ登るうちに、団子になって育った幼い頃に戻ったような錯覚がした。あの頃が幸せだったけら、松陽の存在がますます大きくなったのだろう。でも、いつまでも与えられた環境で小さくなっている子供でいられるはずもない。大人の男になったから、こうして松陽を助けるための手段を講じることができているのだ。松陽さえ、松陽さえまたあの日のように笑ってくれたなら、高杉もまた踏み出すことができる。──もし、もしそれが可能なら、桂と生きていくことだってできるのかもしれない。どうにも生真面目なヤツだからイライラすることも多いだろうけれど、それでも桂の隣は心地よかった。手を離してしまうことが最善だとわかっていたから、こうなっているけれど、気持ちはずっと彼を需めているとわかっていた。あの男は、きっと高杉にとっていなくてはならない存在なのだ、喩え並び立ちはしなくても。だから、愈々死が迫っていることを感じたとき、躊躇わずに残りを託すことができた。銀時と、桂と、坂本が生きている。そうであるならば、彼らにここまで己の手の内をあかし、何をしてきたのか知られたならば、後はそれを完成させるために高杉の生存は必須ではない。桂が、この世にへばりついていてくれるなら、何も恐れることはなかった。最後に瞳に映った銀時はいつものふてぶてしい表情ではなくて、きっと高杉が何も言わなかったら泣いていたのだろう。でも、ここにいない桂に、高杉が立派に散ったことを理解してもらうためにも、最期の最期に銀時の泣き顔では互いに悔いが残る。地球を背負う男が、銀時と桂がまだ生きているから、高杉だって安心して任せられるのだ。銀時の、泣きだしそうな顔で笑う努力に、どうしようもなく安堵した。幼い頃から今まで走り抜けてきた道が走馬灯のように蘇る。高杉の、高杉たるものを形作った幼少期から今に至るまで銀時と桂の存在はずっと大きくて、この期に及んでまた近くに立てたのがとても嬉しい。こんなに優しい男達が残っているのなら、地球は高杉がいなくても守られるだろう。あの世や地獄がもしあるのなら、きっとすぐにヤツらも来るだろう。それを楽しみにすればいい。


2021.8.10.永


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