SOUL
11
「じゃァ…また会おうぜェ」
「あァ、達者でな」
 本来あるべき互いの同意や、手順をしっかり踏んで重ねた体は、聞きしに優る快楽を得たわけではなくとも充分に腑に落ちた。これで、桂に感じていたもどかしいような負い目が少し軽くなった気さえした。そうやって対等になって初めて、考えられることもあれば見えてくるものもある。男として、侍としての彼を認めているからこそ、高杉は桂と対等でなければならなかった。東の空がうっすらと白んできた時刻、空気はきりりと冷たい。あの日、山で別れたときよりもずっと、爽やかな気分だった。あの時も今も、眼前に広がるのは獣すらも通らぬような荒野ばかり、頼れる道標などありはしない。それでも、あの日受け取り損ねた必要なものを過去に戻って拾い上げ、今度こそ戻れぬ道へ踏み出した。今は、また仲間がいて、野望のためにできることをひとつずつ積み重ねているところだからあの頃より計画もたてやすい。少しずつ張り巡らせた根も、息のかかった葉も、この国を侵食しつつある。知れば知るほど腐り切った世界だが、一朝一夕で覆せるほど軽くもない。それを成し遂げるために、これはどうしても必要だった。桂は一夜の伽だけでなく、相も変わらぬ粗食を振る舞ってもくれた。それもあの頃と変わらなくて、子供の頃から変わらぬ出来栄えの握り飯さえなんだか美味に感じた。桂はあの夜のことをどう思っていたのか分からないが、握り飯なんて贅沢品を除いてはあの何もない冬山もかくやというような献立を平然と共に食べていたのだから、きっと高杉が取り返したいものがあそこにあることくらいは察していたのだと思う。桂の隠れ家から離れ、早朝で人気のない河川敷で手持ち無沙汰にバイクに凭れた河上へゆっくりと近づいた。
「用は済んだのでござるか」
「あァ」
「では乗るが良い。拙者と帰るでござる」
 つくづく和装に似合わぬ乗り物に裾をからげて跨った。朝の空気は高度が上がるほどにますます冷え、吐く息が白い。それでも東の空に覗いた曙光に背中を押されているような気がした。


2021.7.27.永


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