SOUL
10(R15)
 満足したのかすやすやと眠ってしまった近藤の隣で上体を起こし、煙管に火を入れる。仮にも攘夷志士の隣でこんなに無防備な寝顔を晒していいのか、と皮肉な考えが浮かぶが、別に寝首をかくつもりもないのを知られてしまっているのだろう。殺すつもりはなくとも、攫ってしまいたい気持ちは少しあるのに、そちらの心配もまるでされていないだろうことは、少し面白くない。高杉は可愛いだけの恋人になどなれはしないのに。
「ん…高、杉…」
 寝ぼけた甘い声に視線を流すが、彼の目は閉じたままだ。煙管から立ち上る少し甘い香をそのままに息を殺して見つめていると、ぱたぱたと大きな手が周囲を探り、ぎゅっと腰を抱き締められた。そのまま安心したようにまた深い呼吸をゆっくり重ねる大男の姿に、つい胸の内が暖かくなる。この手をそっと解いて湯浴みをし、こっそり出ていかなければならぬのが嫌になるほどに。だが、いくら近藤が可愛く愛しく見えたとしても、彼の傍にいてはいけない。松陽のために戦わねばならぬのに、その力が薄れてしまう。やらなければならないことが自分でわかっているから、その足を止める訳には行かないのだ。何かをやらないことの理由に近藤があるのなら、そのやらないことがどれだけ些細であっても野望のために必要であるのなら、高杉は己の覚悟を極めるために近藤を斬らなくてはならなくなってしまう。結局のところ近藤を殺すほど彼への情を捨てきれない高杉は、そっと煙管盆に灰を落とした。赤く煌めく炎が静かに消えるのを待たずに重い腰を上げる。高杉には、生温い恋情も、温かな恋仲も必要ない。大義のために走り抜く力があればそれでいい。その邪魔になるものはどんなに未練があっても捨てるしかないから、だからこうして立っていられるのだ。一番大事なのは松陽で、他は全て究極のところは必要ないのだから。


2021.8.21.永


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