SOUL
7(R15)
「ことは片付いたのか」
 質素な、というより生活感のない和室で座布団を当て、背を凛と伸ばして正座した男は、どう控え目に見ても今からコトに及ばんとしているようには見えない。きっと、そのつもりもないのだろう。だが、高杉はそのつもりだった。問題はどのようにしてこの男もそのつもりにさせるかということだけだ。
「あァ──一旦はな。てめェも色々とやらかしているみてェじゃねーか」
 桂の瞳は、探るというには強過ぎる光で高杉をじっと見つめる。ややあって小さく息をついた。
「そのような話をしたかったわけではあるまい」
「──そうだな、わかっているなら話が早ェ」
 胡座を崩して身を乗り出し、膝にそっと手を触れる。あの日、高杉の出発を許さなかった桂の理由はもはやない。互いに違う方法で、最善を探している。敢えていうなら、桂の方が求めるものの視野が広く、高杉は松陽に焦点を合わせてはいるが、今のところ大きく道は分かたれてはいない。きっと、桂の方が懐が広いから、たくさんのものを抱き締めておきたいのだ。
 ──そして、あの痛いばかりの体験を上書きするなら、桂の懐に高杉がいて、高杉を守りたいという思いが少しでも残っている間でなければならない。なにしろ高杉の計画ではこの後、桂が高杉に対する見方を変えざるを得ないところまで走り抜くつもりであるのだから。
「ヅラ。てめェが俺を抱いたなァ、随分と酷ェやり方だったと思わねーか?」
「ヅラじゃない、桂だ。──いや。あれは必要だった」
 きっぱりとした断言ではあるが、桂の声は少し優しい。高杉に桂を責める意図がないからだろうか。
 高杉は殊更に口角を吊り上げ、膝がぶつかる程に桂へにじり寄った。
「だが、俺ァ痛かった──なァ、あァいうなァもっと、気持ちのいい、極楽にでも行脚するようなものであるべきだとは思わねーか」
 あやすように甘い調子で囁いても桂の顔色は変わらない。真摯な瞳がじっと高杉を捉えた。
「そんな体験をしてきたのか、高杉」
「してねェからてめェに話してるに決まってるだろォ」
 桂の掌が高杉の顎を掬うように触れた。知らず小さく喉が鳴る。期待に僅か腰が浮き、体制を整えようと桂の膝に片手を置いた。
「──懲りぬ男だな、お前は」
「は──俺がそんな殊勝なタマだと…」
 憎まれ口は皆まで言えず、桂の唇に呑み込まれた。桂はいつも涼しい顔をした堅物だが、スイッチが入ってしまえばちゃんと男にもなれることは、とうに知っていた。


2021.7.23.永


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