SOUL
2(R18)
「貴様がどうしても今発たたねばならぬと言うなら、俺は力尽くでお前を止めなければならぬ。それは傷の治りを遅くし、今後の活動に支障をきたすぞ」
「治っちまってからじゃ遅ェんだよ」
 低く唸った反駁に、桂は大きく目を見開いた。やっと通じたとこの瞬間、確信した。
「──貴様の思いが、そんなに柔なものであるはずがなかろう」
 桂は己に分配した蕗の薹の残りを口に押し込み、ほとんど丸呑みでさして美味くもなさそうに嚥下すると、罅の入った皿に載せた高杉の分を脇に避けて躙り寄ってきた。冷えたらきっとアレは余計に不味くなる、と思うが動けず正面に片膝をついた桂をものも言えず見上げた。
「だが、お前にそれが必要なら、俺は違う理由で縛ることもできるのだぞ」
 凛と据わった桂の瞳はあくまでも冷静で、なのにその全身から匂い立つような怒気が込み上げていた。口調が淡々としているのが逆に怖い。
 だが、幼い頃から今までずっと一緒にいたこの男に今更畏怖するなど、口が裂けても認めはしない。
「…できるモンなら、やってみろ」
 ぎゅ、と刀の柄を握る。声は、少し震えていた。
 桂の鋭い瞳は揺らがない。たおやかとさえいえる所作で片手が伸ばされ、身を強ばらせ奥歯を食いしばる。
 ここまできたらたとえ斬り合ってでも、怯えた姿などみせはしない。いくら熱が下がらぬとはいえ、桂にだって何の衒いなく膝を屈してなるものか──そんな悲壮な決意は柔らかな唇が重ねられて霧散した。
「…っ…?」
 息を呑み硬直する高杉の肩を押さえ、熱い舌がぬるりと唇を辿る。
 背を預け合い幾度も戦った。銀時と、桂と団子になってじゃれあうように大きくなった。それでも、彼と口付けなどしたのは初めてだった。
 だが重なってしまった唇の温度に感じるものは決して嫌悪などではなく、むしろずっとこれを望んでいた錯覚すらした。
 近頃いつも熱に浮かされている頭はますます茫洋と霞み、桂の背へおずおずと縋るように刀を離した手を回し抱き付いた。
「──本当は、こんな手段をとりたくはないのだが」
 低い声は、幼子をあやすように甘い。それでいて容赦なく衿を掴んで上半身を暴かれ、外よりはかろうじて温かいくらいの本堂では焚き火の傍でも鳥肌がたった。生理的なものも相俟って震えのはしる身を桂のしなやかな手になぞられると、そこから沸々と火が灯るようで、抗う気力が失せていく。
 こんなにも彼が好きだったのか。せっかく入った揚屋でも綺麗な女相手にまるで使い物にならなかったたかすぎが、桂に口付けられ背をさすられているだけでゆるゆると芯を保って勃ちあがりいたたまれない。確かに、熱のせいもありずっと抜いていなかった。潰された左目が疼いてそれどころではなかった。だが、だからといって今こんなにも簡単に煽られるのだと桂に知られたくもなかった。
 なのに容赦のない桂の手が今度はするりと下肢へ忍び込み、無造作にたかすぎを掴んだ。
「っ…て、め──」
 反駁の声すらも封じるように柔らかく唇を啄まれ、じりじりと腰を寄せてきた桂の体が足の間へ割り込んでくる。


2021.6.27.永


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