SOUL
5
 江戸に帰り、攘夷党に合流すると、桂は日々非常に忙しくなる。攘夷の資金を稼ぎ、新規勧誘をし、そして志を形にするべく活動する。少し遅れて墓参りから戻った分、仕事はたくさんあって、エリザベスの物言いたげな瞳を避ける言い訳もできた。
 攘夷の仕事の、一番近くの中枢で毎日共に活動しているエリザベスには、あの日師の墓参りから戻って以来時折気持ちが高杉へ飛んでしまいぼーっとする時間があることを隠せはしなかった。
 だが、そうやって仕事の効率が悪くなっても桂がするべきこと、しておきたいことは数多あり、目的のために手回しをしなければならない事案もたくさんあって、考えることもいくらでもあった。なのに活動の一環で集めた情報にもちらほらと高杉の動きが混ざり、それがまた桂を現実から遠ざける時間を作る。
 エリザベスも志を同じくする者達も当然桂が気もそぞろであることを目の端に留めながら、表立って口を出しはしなかった。桂もまた、何をも伝えないでいたつもりだった。
 だが、毎日隣で過ごすエリザベスがある朝、蕎麦を啜りながらすっと差し出した昨日の新聞の三面記事に、高杉のことが少しばかり載っていた。消息ではない。ただの、指名手配のチラシだ。なんなら隣に桂だっている。高杉よりはよほどマシな表情をして、カメラ目線だってキメていた。
「エリザベス?」
 見つめ返したエリザベスの瞳は、いつもとまるで変わらぬ吸い込まれそうなもので、何も言わないだけに見透かされているような気になってもぞもぞと落ち着かなくなる。
「──俺には、何もなかったぞ。いつもと変わらぬ。そうであろう?」
 エリザベスは何も言わない。桂の前で声を発さないのはいつもと変わらないがプラカードすら出さない。ただじっと、高杉の写真を見せつけられるのに耐えかねて、乱暴に指名手配のチラシを引ったくった。
「盆に会った! それでいいか。どうしたのだエリザベス!」
 そこでようやく差し向けられたプラカードには、‘表に来てますよ’と書かれていた。弾かれたように立ち上がり、窓に駆け寄る。
 見下ろした人の多く行き交う街路に、派手な着物の男が目深に笠を被って堂々と立っていた。
 桂の視線に気付いたのか片手を笠の縁に添え、顎を上げた高杉の隻眼と目が合う。毒々しいほど紅い唇がにんまりと弧を描いた。



2020.8.2.永


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あきゅろす。
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