SOUL
また会える日まで(R18)
 死の淵から生還した高杉は、それまでずっと左目を隠していた包帯を外すことにしたらしい。沖田と幾度体を重ねても、着物を全て脱いでも決して晒さなかった左目は、潰されたときはいざ知らず今となっては閉じてこそいるものの睫が整然と並び、彼の秀麗さを損なってはいなかった。包帯の危うい均衡を取り払った高杉は、ほんの僅かに残していた揺らぎや甘さをかなぐり捨てて、以前より更にギラギラとしていた。それでも、沖田との密やかな関係をも断ち切る程に変わってはいなかったらしい。
 着物でなく洋装で現れた総督は、江戸を瓦礫の山にした戦が仮初めの一段落をみせたとき、血みどろでぎらついた瞳をして沖田の袖を引いた。
「よォ…」
 路地から声をかけられる前に、殺気もないのに辺りをビリビリ震わせるような何かを感じて沖田は知らず背筋を張り詰めさせていた。
 しかし聞こえたのが覚えのある声のようだったから、ゆっくりと振り返る、それを待たずに無造作に二の腕を掴まれ、肩口に額が押し付けられた。
「沖田ァ…どんな俺になっても勃つか?」
 腰に高杉の刀の柄が当たっている。振り返ることを許さぬようにぴたりと寄り添い、濃厚な血の匂いを漂わせ唸る声は、どこか艶めき色を帯びていた。
 沖田は右腕を押さえる高杉の骨張った右手に左手を重ね、小さく息をついた。
「もう勃ってらァ」
 それはあながち大袈裟でもなかった。腰の奥に甘い炎が点り、おきたが疼く。
「──節操のねェ野郎だな」
 だがしかし、揶揄するような口調を重ねられると癇に障る。血腥い中にも煙管の香を纏い低く甘い声を出す、高杉だからこんなになっているのに、誰にでも勃起するように言われては堪らない。確かに性衝動がおきやすく引きずられやすい年代ではあるが、沖田は高杉がこの年齢であった頃より余程節度を保っているつもりだ──いや、青臭い頃の高杉の奔放ぶりは今の様子からの想像で、その頃の彼は今よりずっと慎み深かったのかもしれないけれど。
 とにかく面白くなくて高杉の右手首を掴み、勢い良く体を反転させ振り返る。
 包帯のない姿を見るのは初めてだった。
 刹那呆然と目を瞠る沖田をどう思ったか高杉はすっと手を引き、身を翻しかける、その左肩を焦って掴んだ。
「信じられねーってェなら、今ここで鳴かせてやるぜィ」
 低く唸る沖田をじっと見、高杉はにんまり口角を吊り上げた。
「少しばかりお預けさ、すぐにたっぷり喰わせてやらァ」
 こんな食わせ者、腹を下しそうだ。


 壊れかけた街に辛うじて建った、人のいなくなった廃屋で、散らかる物をぞんざいに避けて顔を出した日に焼けた畳に折り重なるように腰を落とし、沖田は高杉の腰を膝立ちで跨いで唇を吸い合う。
 高杉の右手が沖田の隊服の裾を捲り、腰周りを確かめるようになぞった。その手を好きにさせながら無造作に投げ出された彼の腿の上に腰を落とし、洋袴の下で存在を主張するたかすぎを自分の体重で刺激した。
「──どうしてェ?」
 沖田の舌をぺろりと舐め、高杉が掠れた声を出す。欲に塗れた緑の瞳を見下ろし、沖田は口角を持ち上げた。
「抱いてやらァ」
「ん…」
 高杉は小さく頷き、膝を立て少し足を広げた。僅かに腰を浮かせ右手は畳について、沖田に熱を保った高鳴りを押し付ける。きっちりと閉められた前身頃を開き手を侵入させ、素肌に掌を這わせた。
 鳩尾に貫かれたような傷が増えた他は、以前と大きな変化はないようで小さく安堵する。
「──高杉…」
 彼の匂いに当てられて掠れた声を出し、首もとに口付けを落とす。鎖骨、胸筋と下っていきながら、洋服の内側から腰周りをなぞった。
 ぎゅっと締められたベルトを緩め、その下のズボンの前たてを開く。柔らかな麻の下着の内で、たかすぎが芯を保っているのがわかった。
「沖田…」
 濡れた声に一度視線を絡ませて、生地ごとかれを掌に包む。溢れ出した液を吸い上げた布が掌に吸い付くようにしっとりと寄り添い、僅かに息を弾ませた。
 もどかしげに身じろいだ高杉が沖田の隊服の胸元を開いていく。好きにさせながら下着の腹周りから指先を内側へ差し入れた。沖田の胸元をぬるりと熱い舌が這う。
 少し乱れた呼気が素肌を擽るのに気をよくして、ひやりと冷たい玉を指先で転がした。その裏へ指を這わせ、会隠を辿る。ゆるゆると撫でてやると、小さく背を震わせた高杉が沖田の袖をぎゅっと掴んだ。慣れた入口がその先を望んで小さくひくつくのを感じながら、指先で会隠を抉るように圧迫した。
「っう…あ──」
 背を反らし濡れた声を上げた高杉の、さらに奥へ誘うように蠢くそこを指の腹で撫でる。濡れてこそこないものの確かな期待を露に示すその襞のひとつひとつを辿るように触れた。
 さしたる刺激も与えていないはずなのにとろとろとたかすぎから溢れた蜜が幹を伝い、沖田の手首に鎮座した玉の皺に溜まる。
「おき、た──」
 濡れた瞳がその先を求めて沖田を睨み、そのままに肩口へ顔が寄せられた。上衣を引き下げられ熱く濡れた歯が上腕筋に触れ、ぎゅっと食い込む。皮膚が破れぬ程度に加減された圧に眉が寄った。
 痛みに強張る指先でたかすぎが零す透明な蜜を掬い取り、待ちかねたような後ろへ運ぶ。湿りがあてがわれただけで期待におののくそこを一度揶揄するように撫で、そっと中へ侵入した。
 沖田に食い込む牙が緩み、熱い呼気がずきずきと痛む型をなぶる。
 感極まったような低い呻きが耳に優しい。長い前髪に表情が隠され秀麗な顔が艶やかな紫がかった黒色の狭間にちらつく。以前から綺麗だとは思っていたが、包帯が外されてしまうとその印象は一入で、喉が鳴った。
 根元まで突き入れた指で体内を確かめるようにぐるりと辿る。あえかな喘ぎと共に唇が外れ、肩口へ額が擦り付けられた。
 普段は凛としたこの男がこんなザマを見せるのは、沖田にだけなのだ。年嵩の鯔背なこの男は、沖田のものなのだ。それが堪らなく嬉しくて、髪に頬を擦り付けこめかみへ口付けを落とした。
 腹側の痼りを指先で探り当て、わざと逸らしてその周をなぞる。
 高杉の唇が何かを言いかけて開き、すぐに悔しげに閉じられた。
 ねだる言葉が引き出せなかったのが残念で、でも同時に余裕のない姿が愛しくて、くるりと手首を返して体内に食い込ませた指で弧を描き、親指の腹を会陰にあてがう。意図を察して小さく息を呑んだ高杉のそこを押し込むように刺激した。
「っ…あ──」
 小さく背を痙攣させ、沖田に触れた手が強く握られる。自分の唇をぺろりと舐め、膝頭で緩く内腿の付け根を開かせた。
「いいザマだぜィ、高杉」
 欲に掠れた声で囁き、側頭部に頬擦りする。彼の煙草の甘い匂いが鼻腔を擽った。

 熟れた体をたっぷり時間をかけて拓き、欲に濡れた瞳の焦点が怪しくなってきたところで高杉の片足を持ち上げ大きく開かせる。
「──あ…っ」
 高杉は後腔に熱があてがわれると、小さく息を呑むように声を零し、熱に浮かされた瞳を沖田に向けた。
 首に絡むように腕が回され、額が寄せられる。絶え間なく乱れた息を吐く唇に接吻し、舌をねじ込むと同時におきたで彼を割開いた。
 半壊した建物は雨風も完全には遮らぬらしく、だから家人に見捨てられたのだろう誰のものとも知れぬ家屋で、巡邏をサボって高杉を抱いている。給金なんてもうずっともらってはいないけれど、江戸の治安を守ると近藤が言うからこんなガタガタになった街のために働いている。
 高杉はまた違う角度からこの国のことを考えているのだろう。そんな彼をこんな荒れた場所で犯すのは、とても酷いことをしている気がした。
 しかし熟れきった体内に包まれ、誘うように甘い声を漏らす高杉を穿つのを止められない。全身がかあっと熱くなって、息を弾ませた。絶え間なく揺さぶられ、ぎこちない舌が沖田に擦りよってくる、それに応え熱い息を彼の口内へ零した。
「あっ…あ…」
 最奥を穿ち、腰を引いて腹側の痼りを亀頭で揺さぶる。高杉はたまらぬように口付けを振り解き背をしならせた。片足だけを抜いたズボンが左の腿に絡み、質のいい下着と諸共にぐしゃりと丸まって引っかかっている。縋るように二の腕を掴まれ、口角を吊り上げた。
「高杉…」
 息を弾ませ、熱に浮かされた声で名を舌に載せる。欲に濡れた緑の瞳がぼんやりと沖田を捉え、瞳孔を柔らかく開いて笑んだ。
「──おき、た…」
 ぎこちなく動く舌が舌足らずな音を漏らし、胸の奥が引き絞られるように堪らなくなった。高杉の耳朶を食まんばかりに顔を寄せ、縋るような音を吹き込む。
「俺だけだろィ?」
「っ…あ──?」
「てめェがここまで許すなァ、俺だけだろィ」
 好きだなんて言ったことはなかった。高杉にも告げられたことはない。なのにそれが今になってこんなにももどかしい。
 高杉は最奥まで暴かせながら、堪らないように喉を鳴らして笑った。それが面白くなくて動きを止め、押し倒した顔の脇に両手をついて睨み付ける。
 ひとしきり笑って高杉は、上擦り掠れた声で囁いた。
「てめェだけさ。当たり前だろォ」
 大きく目を見開いた。信じるには彼の体は始めから熟れすぎてはいたが、そんな理性の気付きなど意に介さずおきたが彼の中で一際膨らむ。それに小さく身を震わせ心地良さそうに息をつく高杉を乱暴に抉った。濡れた声を上げるたかすぎを手で煽り立て、彼の最奥へ欲を吐き出す。高い音がぞくぞくと背筋を震わせる。乱れた息もそのままに唇を重ね、舌をねじ込んだ。とろとろと互いの狭間に白い粘液を零すたかすぎを腹筋で押し潰し、夢中になって舌を絡ませる。
 視界が滲んだ。
 好きで好きで堪らなくて、それがこんなにも背徳的で、それでもこの男から逃れられはしない。
 高杉の手が沖田の髪を撫で、心地良さに目を細める。息が徐々に落ち着いてきた。
 濡れた瞳と目が合って、堪らなくなった。
 高杉は唇を笑みの形に歪め沖田の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。
「──高杉」
「あァ…沖田」
 呼び合った名前は低く甘い音に載せられて、他に何も言葉が必要ないくらいだ。
 壊れかけた建物の外で烏の鳴く声がする。そろそろ陽が暮れるのだろう。なら、沖田もそろそろ戻らなければならない。高杉だって、まさか単独行動をしているわけではないだろうし、沖田とヤるためだけに包帯を解き洋装になってこの街に来たはずもない。もう別れなければならないとわかりきっているのに体の繋がりを解くことすら決断できず角度を変えて唇を啄み合う。
 ふいに後頭部をぐいと抱かれ、耳元に顔が寄せられた。
「──また会おうぜェ」
 鼓膜を直に震わす熱い呼気に、沖田はゆっくりと瞬いた。
「あァ…また、ねィ」
 次がいつになるかはわからない。また、が来るまでに首と胴が別れているのかもしれない。でも、そのまたが現実になるまでずっと待ってしまうのだろう。この男のことなら、いくらだって待てる気がした。

 中途半端に不死の血を取り込んだ男は、地球ごと自分を滅ぼそうとした虚と共に逝ってしまった。その知らせをくれたのは銀時で、何故沖田に伝えたのかなど聞かなくてもわかった。
 銀時は、知っていたのだろう。沖田と高杉の間に何があったか、全てではないにしても肝心なところだけは、きっと。
「ごめんな、沖田くん。アイツをお前のところまで連れて帰れなかったわ」
 珍しく肩を落とし力無い声で謝る銀時に、自分はそんなに酷い表情をしているのだろうかと他人事のように思った。沖田は自分の胸元に手を当て、深く息を吐く。
「──大丈夫でさァ、旦那。アイツぁ俺に、また会おうっていいやしたから」


2020.1.11.永


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