SOUL
14(R15)
「──起きたでござるか」
 右瞼を持ち上げる。
 薄っぺらい煎餅布団に寝かされていた高杉のすぐ脇に万斉が正座していた。
 体はある程度清められているようだが、着てきた物の腹から胸にかけてじっとりと濡れていて、それが何故かうっすらとでも覚えているから腹立たしい。
「ヅラは何処へ行きやがった」
 喉から押し出した声は非常に掠れていて、それもまた面白くない。
「何でもバイトの準備があるとか…まだそこの洗面所にいるようではござる」
「呼んで来い」
 万斉はサングラス越しの読めない瞳でじっと高杉を見、ゆっくりと腰を上げた。
 桂のような堅物が急に性技に目覚めるなど、どう考えてもおかしい。高杉が感じたように桂も、一旦は互いの関係が終わったと判断したにしても、他の者とナニやらやらかしていたならただではおかない──フツフツと煮えたぎる思いは、稍あって万斉を伴い現れた女装の桂に吹き飛ばされた。
「──なんでェ、その格好は」
「む? 俺は今から出勤だ。こちらは流石に早退も遅刻もできぬ。ママに殺されるからな」
 桂の格好と、急に妙な性技を披露したことが自然と一本の線に繋がり高杉は弾かれたように立ち上がった、が、がくりと膝から崩れた。
「腰にきたか、愛いな。ゆっくりしていくがいい。俺も朝までには戻る」
「俺も、行く」
 目を細め嬉しそうにしている桂を遮り、言葉だけは鋭く唸る。
 桂は柳眉を寄せ、高杉の前に膝をついた。
「行くと言っても…高杉、そんな状態で何かあったらどうするのだ。俺もずっとお前についていられるとは限らぬのだぞ」
 高杉は桂の瞳を睨み、先程より圧を込めて音を重ねた。
「てめェに妙な技を吹き込んだヤツに会わせろ」


2019.8.8.永


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あきゅろす。
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