GROWTH
臨也と静雄、新羅(臨静、新セ、R15)
 新宿の情報屋の事務所の近くまでたまたま往診し、今日はセルティも遅くなると言っていたしと軽い気持ちで寄ってみた──ら、そこには当たり前みたいに静雄もいた。静雄が自宅のように寛いでいるから、新羅も遠慮なく臨也の空いている側の隣を選び、静雄と二人で家主を挟んでソファに腰掛ける。
「随分疲れているみたいだね、折原君」
「ああ…動きたくないくらいにね」
「新羅、暇なら飯食って行けよ。臨也の料理は美味いぜ」
「今から? 俺が作るの? 俺、今、動きたくないくらい疲れてるって言ったばかりだよね?」
「いいじゃねえか、俺、手前の料理好きだぜ」
 どうして男三人無駄にくっ付いて座っているんだろうとわざわざ考えると虚しくなるから、臨也がおだてに乗って席を立ってくれるのはむしろ歓迎だ、如何に彼の顔色が悪くとも。新羅が臨也を庇うはずはないのにそれを期待したのか、ちらりとこちらを見て溜息を吐いた親友が立ち上がる。
 臨也の紅茶は、基本的に彼が口にするものに対し凝り性だからいつも美味しい。期待膨らませて微笑みを向けると、小さな舌打ちを返されてしまった。
「全く人使いが荒いんだから」
「信頼関係がある証拠だねえ」「──ただの腐れ縁だろ」
 憎まれ口を交わしながらも、ちゃんとカップを温め、茶葉を蒸らしているものだから香りからして堪らない。
 セルティのことはとても愛している、彼女の全ての欠点をも愛していると断言できるが、手料理や飲み物の味付けが上手くないのは否定できない。
 漸く差し出されたカップを受け取り、両手で薄い瀬戸物を包むように持った。口元に近付け、含む前に深々と呼吸する。臨也は香りを満喫している新羅を気にもとめずにどさりと元の位置に座り、自分のカップを無造作に口元へ運んだ。
「上手だよねえ、折原君」
「──それはどうも」
 ぶっきらぼうな返事ではあったが、悪い気はしていないようだ。臨也が半ばを飲み干したカップに手を伸ばす静雄に応えて味見をさせてやったりなどしている。こんな風に彼らが自然にいちゃつくようになったのはいつからだろう。
「昨夜は激しかったのかい?」
 だからつい、下世話な想像だってしてしまう。なんといっても新羅はセルティといい感じに出来上がって間がないこともあってか連日だ。しかし親友達はもっとずっと長い付き合いだ。後学のためにも聞いてみたいなんて思った軽い言葉に二人してきょとん、と振り向いた。
「そういや最近してねえな」
「そうだね、そういえば」
「──君達はそんなに枯れてるの?」
 同年代の新羅はセルティが可愛くて常に触っていたくてたまらないのに、同じ男の性欲を持ち合わせたはずの二人にそんなにあっけらかんとされると戸惑ってしまう。
「うーん…俺達は生活してるからねえ」
「そんな、私とセルティが生活をしていないみたいじゃないか」
「ううん、生活をしてるから、毎日セックスしなくてもちゃんと満足できるし、もちろんタイミングが合えばそういうこともするけど、そればっかりじゃなくても平気になってきたっていう感じだな」
 残念ながら悟りを開くには程遠い新羅には二人の関係が充分理解できたとは言い難かった。それでもさり気なく互いを気遣い合い、体に触れずともなんだかんだ想い合っているのだろうなといった空気を纏っているものだからくすぐったくて仕方ない。あんなにうんざりするくらい周囲を破壊して戦っていたはずの友人達が、変われば変わるものだ。セルティが新羅を受け入れるくらいの月日が流れたのだから、それも当然かもしれない、変わらないものなどないのだから。いや、しかしセルティに受け入れてもらってからで良かった。そうでなければ、こんなにも素直に仲良くなった友人達と並んで茶など啜れなかったかもしれない。


2021.4.18.永


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!