GROWTH
沖田(沖土)
 土方が気に食わない。初めて近藤が連れてきた、その瞬間からずっと。だが、頭が良くて強く、魅力的なヤツだということは、姉の想いを知るまでもなく思っていた。だからこそ一層土方が気に食わなくなってもいたのだけれど。


アイツのことばかり、考えちまう。こういうとき、アイツだったらこう言うのかねィとか…
俺ァ、線引きだとか立場なんざ、そんなこたァどうでもいいんでさァ。
ただ、近藤さんの傍で働く俺の側にアイツが居てくれりゃァそれでいいんでィ。
他の誰でもねェ、アイツだけが欲しくて、アイツが大切で。だから──俺ァ冷たいんでさァ。


 そのくせ、こんなときにヤツの姿が脳裏を巡り巡るなどどうかしている。
 決して向いているとは言えないが尾行の最中、後について出る隙がなく貯蔵庫に閉じ込められてしまった。沖田がここにいることを知っている者は数えるほどしかおらず、彼らだって明日の朝になっても沖田が戻らなければ漸く心配する程度だろう。このクソ寒い、マグロと武器と死体が一緒に凍っているような貯蔵庫で夜明かしなどまっぴらごめんだ。こんなところに潜んでいたら凍死してしまう。
 耳をつけるとそのままくっ付いてしまいそうなほどに冷たい厚い扉の向こうの気配は今ひとつ感じ取れないが、ヤツらが冷凍庫へ戻ってきる様子は今のところない。
 だが、来てくれないと困るのだ。何しろここは、忌々しいことに外からしか開けられない。最終手段は強行突破で扉ごと破壊するしかないだろう。
 沖田は白い息を吐き、震えの止まらぬあまりうっすら眠気を兆してきた頭を振って、氷のように冷たい携帯を取り出す。辛うじてまだ息はあるらしい小さな機械は、アンテナのマークがあるべきところに圏外の文字を浮かばせていた。
 沖田はもう一度庫内の気配を探り、やっぱり生きた者のいないことを確認すると顔の高さに機械を持ち上げゆっくりと壁に沿って歩く。
 土方は気に食わないが、彼の頭脳は認めていた。それどころか、彼そのものを愛してもいた。ミツバだけでなくその弟の心まで奪うなど、あの男はどこまで業が深いのだろう。ミツバがいなくなった今、沖田には近藤と土方を措いて語れるものなどなくなってしまった。だが、ここからどうにかして出なければ、何も語る能力がなくなってしまう。
 息が白い。
 手が悴む。
 生きた者の気配はない。頭がぼおっとして、眠気が纏わりつく。
 携帯はずっと圏外だ。
 歩みが遅くなっていく。意識だけはしっかり保とうと頬の内側を強く噛む──アンテナが、立った。


「お前が凍死してェとは知らなかったぜ」
「怪我人の部屋で煙草吸うような男に肺癌にされるよりはマシかと思いやして」
「は、それだけべらべら喋れるなら大丈夫だろうぜ」
 目が覚めて、土方の顔が眼前にあったとき、天国へ行ったのかと思った。だが残念ながら天国へなど死んだって行けそうにない沖田は、生きて屯所へ戻ってきたらしい。この分なら一週間もすれば土方の精神に刺さる嫌がらせを考えられるようになるだろう、実に素晴らしい。
「──ありがとうごぜェやした」
「っ…──構わねーよ。ちょうどみんなとっつかまえられたからな」
 憎まれ口は顔を直視して叩き合えるのに、こんな言葉になると目を見ることもできなくなる。視線を逸らしてしまうと声が互いにどうしようもなく優しいことがわかり、堪らなくなった。
 手首を掴み体を引き寄せる。


2021.1.3.永


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