GROWTH
臨也と新羅(新臨)
「愚かだねえ。ただの人間如きが永遠を夢見るなんて。そういうものは俺のような選ばれた存在が抱くべき願望だよ」
「そういう自惚れは痛々しいと思うよ、折原君。まあ──セルティを通して僕は、万古長青に憧れる想い自体は理解しているつもりだけど」
 人間は愚かしく、だからこそ面白い。とくに思春期の人間は馬鹿だ。男は行動でその馬鹿さを示し、女はその心の中に広々と闇を描く。どちらにせよ、大半の人間にとっては数十年もすれば若かったなと回顧できるようなことだ。だが、その直中にあるときは自分にはどんな力でも備わっているような大それた思いや、世界の不幸の全てを背負っているような自己憐憫に陶酔するのだ。そしてその揺らぎ易い年代の、少年と青年の狭間の人間達は、他のどの年代よりも簡単に臨也のいざないに応えた。臨也こそが自分を覆う全てのものから救ってくれると盲信するように。
 彼らは、臨也が所謂普通の人と違う面を見せれば見せる程あっさりと臨也を懐に入れた。思春期の青少年は、世界に倦んでいて、だからこそ世界に一人ぼっちであるかのような孤独感と絶望に苛まれている。妊娠、出産を経る女性や更年期のホルモンバランスの乱れが人間を揺さぶるが、思春期だってそうだ。往々にして感情の揺れ動く時期の中で最も幼い者達はその分だけ無防備だ。
 その時期の脆さを見る臨也の穢い視点と同じものを新羅もまた持つことができた。違ったのは、新羅にはそんなもの興味がないということだけだ。関心の方向性が互いを決定的に違う者にしてはいたが、全人類を見下し、そして同時に愛している臨也にとって唯一尊敬にも似たものを感じさせたのは新羅だけだった。新羅だけが望むと望まざるとに拘わらず、臨也と同じ世界を見ることができたのだ──望んでいなかったから、新羅の意識の端にも引っ掛かりはしなかったが。
「ねえ、新羅」
「なんだい、折原くん」
 形ばかりの部活動の最中、部長であるはずの男は生物に見向きもせずに携帯ばかり弄っている。そして唯一の部員である臨也はそんな部長をじっと見つめていた。
「いっそ妖精観察部にした方が君のやりたいことに合うんじゃないの?」
 新羅は顔を上げ、そして携帯を弄っていたときとは打って変わって寂しい表情をした。
「ああ、そうできたらいいんだけどねえ。でもセルティは普通の中学生らしく部活をして、友達を作ってほしいらしいんだ」
「妖精も生物だろう? 首無しを対象にできないならブラウニーでも釣るためにミルクと菓子でも用意しようか」
 セルティが存在するからには妖精というものの存在を疑いこそしないが、臨也に彼らへの愛着などまるでない。それでも新羅のために心にもないことを言う。新羅は臨也がそれに関心を持たぬことを知り抜いている分、訝しむ目を向けた。この一瞬でも、首無しから気が逸れ臨也を見てくれているのが嬉しい。
「折原くんがそんなものに興味を持てるとは知らなかったよ」
 稍あって返された新羅の声は深く、落ち着いていた。それが全てを見透かされているような気にさせる。臨也は口元に笑みを掃いて新羅を睨み付ける。
 この男は、タチが悪い。わかっていてもこの男に惹かれてしまうのは、臨也が新羅以上に悪い男だからなのだろう。


2020.9.29.永


あきゅろす。
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