GROWTH
臨也と静雄(臨静、R18)
 幼い頃に異常な筋肉の発達を遂げた静雄は、存外にもの知らずだ。自分の怒りを制御できずに思い悩み、周囲からは距離を置かれ、新羅以外とは仲良くなれず、孤独な世界で生きていたのならばそれも仕方ないのだろう。学校の授業より、自分の傷の手当てで病院にいる方が長かった時期もあるようだし。
「なあ、臨也。おかま掘られるってなんだ?」
「は? ──どこでそんな言葉聞いてきたの」
「テレビで。あの芸人がそう言ったら、みんな大騒ぎしてやがるからよ」
「…ああ…」
「どういう意味なんだ?」
「俺達がいつもやってることかな…」
 だが、そんなある種の常識のようなものを落としたまま大人になってしまった男と恋人になったなら、幼い子供に性的な言葉の意味を訊かれて戸惑うような心境になってしまう。勿論静雄は子供ではないのだから、そういう意味で気を使う必要など全くないのだが、そう気安くその壁を越えられはしない。
 つまり、なんとなくそういう方向に疎い気配を察すると、せっかくだから世間一般では特殊かもしれない趣味であったとしても、さもそれが常識であるようなフリをして刷り込みたい。そうして、自分のしたいプレイを抵抗なくこなせるようになってほしい。絶対条件ではないが性行為を伴うパートナーとして、もしそういうところがあれば、やはり理想的ではある。なにしろ、自分の好みに染まってくれるのだ。
 だが、幼い子供でもない分、情報源はたくさんある。まして今の御時世、ほとんどの家庭にテレビがあり、もしなかったとしても携帯でいくらでも見られる。ネットで欲しい情報だけ取捨選択することもできるが、やはり一方通行のテレビを好む者もまだまだ多く、そういう者達は与えられる情報に踊らされ、そうして静雄が訳のわからないことを訊いてきたりするわけだ、実に面白くない。いっそ体で教えてやろうかとふざけたことを言ってのしかかれない程度には、臨也はひねくれてプライドが高かった。せっかく無垢なものを染める機会に恵まれたなら、自分以外の誰にも余計なものを与えてほしくないほどに、全てを臨也色に染め上げてやろうと思っていたのだ。それにも拘わらずなされたテレビなんて一方的な放送機関からの暴挙に憤りを禁じ得ない。
 臨也はとりあえずテレビを消し、せっかく幽主演のドラマがあと5分で始まるという予告が終わった瞬間真っ暗になった画面に静雄が怒り出す前に素早く側に寄り、唇を重ねる。怒りにも飲まれやすいが快楽にも流されやすい静雄は握りかけた拳を下ろし、目許にほんのり朱を掃いて口付けに応えてくる。
 差し入れた舌に柔らかく絡む舌をゆっくりと舐り、熱く深い息をうっとり吐いた。
「──かすか、の…」
「録画しておいたから」
 現実と行為への誘惑を繋ぐ微かな糸を柔らかな音で叩き斬り、下肢をゆっくりなぞった。
 しずおは既に熱を保って勃ち上がり、元々儚い静雄の理性がもうすっかりとろけていることがわかる。
 口元に弧を描いて静雄の前に膝をつき、寛げた屹立に唇を寄せた。透明な雫を滲ませる先端に口付け、舌先で舐る。静雄は反駁の言葉も浮かばなくなってきたらしい。ぎゅっと閉じた眦に欲に潤む雫がきらりと輝いた。
「ん…シズちゃん──」
 そっと彼の手が臨也の背にまわり、背骨が折れそうなくらい抱き締められた。


2020.7.22.永


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!