GROWTH
高杉(沖高、R15)
そうだ、アイツぁ他人のケツに躊躇わず日本刀突っ込むような野郎さ。
しかしそれがアイツであるってェなら、可愛らしいのもまた事実。なァ、俺ァお前さんにいかれちまっているんだな。


 惚れたなら痘痕も靨とは言うけれど、ここまで来ると相当だ。尤も高杉は元々器がおかしいところはあるから、性格故仕方がないのかもしれないけれど。
 世間の中で生きていくために普通はぐっと飲み込んでしまうことを、高杉は決して見逃さない。それは本来小さなものなどではない、血を吐くような庶民の痛みだ。それでも耐えねばならぬと皆が歯を食いしばるその様を、高杉はニヒルに笑って己の道へ走り出す。高杉にかかれば全てが些細なことで、そして世界を転覆させかねないくらい大きなことに変わってしまう。
 そんな男が、たった一人の女のために自分の命を投げ打った賭けに出てしまえるような男が、沖田の手を取ったのだ。彼の琴線に響いたのがいくら珍妙なポイントであったとしても、今更驚くには値しない。高杉が大事なものとしてカウントしたなら、そんなことに拘泥しても仕方ないのだ。
「へェ…なら俺ァねィ、てめェの頭のおかしさに一等イかれちまっているぜィ」
 酒を酌み交わし、問わず語りに語り出した互いの好きなところは、どこか気恥ずかしく、温かい。何食わぬ顔して向かい合い、座っていることすらもぞもぞと落ち着かず、酌をし合うフリをして何度も腰を浮かせて座り直す。
 そうして徳利が空になり、どちらからともなく口付けた。
 別にヤりたいばかりでもないが、ただ何となく訳のわからないことを話しているのは楽しくて、楽しくなってくると無性に触れたくなる。高杉の唇は染み付いたような煙草の味がするのにどこか甘くて、堪らなくなる。いくら舌を絡めてもまだ足りないような、焦燥感に駆られて体を強く抱き締めた。
「──高杉」
 欲に上擦り掠れた声は、どうしたってサマにならない。高杉はうっとりと右目を細め、沖田の髪に指を絡ませるようにしてぐしゃぐしゃ撫でた。髪を混ぜられるのが心地良く、うっとりと息を吐いて額同士を押し付ける。鼻先が触れ合い、どちらからともなく小さく喉を鳴らして笑った。
 好いた惚れたに理屈なんか必要ない。些細なきっかけで出会って恋に落ちてしまったなら、もうその後は止められない。立場も何も関係なく、ただこの男が好きだと全身全霊が内側から叫んでいる。
「沖田ァ…」
 名を呼び、呼ばれるだけで堪らないほどに。この世界にどれだけ多くの人間が存在していようとも、こんな想いにさせてくれるのは彼しかいないと信じていた。高杉に言わせればそれは、沖田の若さ故の視野の狭さになってしまうが、物理的に視野の狭い高杉にはわからないこともあるのだと思っている。
 唇を啄み合って体を抱き締め合って、互いの体がまだ血潮の通う温もりを保っていることに知らず安堵する。こんなにぴたりとくっ付いているのに服を乱しもせずに深い息を吐き、頬を擦り寄せた。
「あ──たまに補充しねェとおかしくならァ」
 あまりの心地良さに零れた声は酷く怠惰で、高杉が小さく喉を震わせて笑った。
「俺がいて、良かっただろォ」
 あまりといえばあまりに傲慢な言葉も、表現程高杉が自信を持っていないことは知っている。そしてそれと同時に、本来あってはならないことだとしても、高杉晋助という存在が沖田総悟の大きな支えになっているのも確かだった。


2020.4.30.永


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