GROWTH
臨也と新羅(臨静、下品)
 変わらないものなど何もない。愛も、恋も、そんな精神的なものから物理的なものまで。壊れないものはないし、生まれてきたからには死なないものはない。生きているとは一瞬一瞬変化し続けることで、別に老化だなど認めたくはないが、毎回毎回恋人とのセックスに至るとき始めからフル勃起しているわけでもないのだ。
 ──だが、相手の痴態を見ても、触ってもらっても、どうあっても勃たないなど、これは男の沽券に関わる事態ではあった。別にしてもしなくてもいいよなって言ってサマになるのは、相手が性に怯える生娘だったときくらいで、体を幾度も重ねていて、自然に互いに需め合っているときに逸物が役に立たないのは由々しき事態なのである。
「ねえ新羅、長く付き合ってたらたまには勃たないことだってあるよね?」
「何を言っているんだい折原君。俺はいつだってセルティを見るだけでギンギンに──ぐはっ! セ、セルティ…今日もいいパンチだよ…っ!」
「首無し、今俺は、男として真剣に相談してたんだけど。邪魔しないでほしいなあ」
 他人事なら面白く、本人達はひた隠しにしているのだろうがよく聞く話ではあった。だがそれがこと自分に降りかかると、臨也とて笑ってはいられない。
 だからこそっと相談しようと波江が帰った後静雄が来るまでの僅かな時間を有効活用して新羅に電話をかけた。幸いにも一人であったらしい彼はコールに応じてはくれたが、話がまるで進まないうちに帰宅してしまったらしいセルティに邪魔をされる形になり、臨也は苛々と舌を打つ。
 早くしないと静雄が来てしまう。新羅に一度電話したくらいでもし解決するなら苦労はしないが、ただ、勃たない夜を如何に過ごすかのヒントはとても切実に知りたかった。もし自分達がもっと年配であるか、もしくは男女であるなら、ただ体を寄せ合って眠るだけでもいいだろう。だが若い男同士であるなら何もない恋人との夜など有り得ない。
 しかも今日に限って静雄は暇であったらしい。予定より早い時間なのに玄関で音がする。
 数少ない合い鍵を持っている静雄が自分で鍵を開けて入ってきた。
「──いらっしゃい、シズちゃん」
 電話は切れたが、案は何も浮かんでいない。そのせいか背に冷や汗、額に脂汗が滲み思考がぐるぐるする。そんな臨也を静雄はじっと見て、無表情に首を傾げた。
「真っ青じゃねえか、具合でも悪いのか?」
 悪いといえば悪い、主に股間が。どうして勃たなくなったのかわからない。食べ物にはとても気を遣っているし、仕事は天職とも思えるほどに面白い。人間は思い通りに動かないときも勿論あるが、彼らの織りなす様々な工夫はいくら見ても見飽きない。
 だが、静雄がそう勘違いしてくれるならば好都合だ。正々堂々ヤらない夜を共に過ごすことができる。
「そうだね…少し、頭が痛くて」
 臨也は慎重に自分の体の状態に注意を払い、言葉を選ぶ。ある種獣的に鋭い静雄に嘘は通じないと知っているから、細かい事情を省略して事実だけを厳選した。
 案の定と言うべきか素直に納得した彼は心配そうに臨也の額に手を当てた。
「熱はねえみてえだが…早く寝ろよ。いてやるから」
 一晩穏やかに一緒に眠って、全てが解決したらいいのだけれど。


2020.1.31.永


あきゅろす。
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