GROWTH
桂と山崎(桂と山崎、攻×攻、R15)
 天人の多く来訪する料亭に山崎が潜入したところ、一週間後に新入り下働きには桂が入ってきた。いくら妙な被り物をしているとはいえ、山崎が桂を見間違えるはずはない、驚きはしたものの、つい一週間早く入店していた先輩として何食わぬ顔で仕事を教える。料亭の仕事を教えるついでにさり気なく客席の様子を窺うコツとか、帳簿を不自然でなく見る方法とか、店の偉い人の話を漏れ聞くための廊下を通るタイミングとか、そういったものを散りばめて、しかも付け焼き刃の桂の前で実践してやって、着実に情報を集めていく。自分の持つ情報集めの手法を何故か一番近くで桂に見せつける。
 いいところを見せたいなんて野心も多分にあったお陰で目標は少々異なったものの計画通り裏を取り、山崎は表から桂は裏からその敵を瓦解させることができた。
 そんな、図らずも共闘してしまった事件の後始末が落ち着いたある日。ラブホで二人神妙な顔で向かい合う。
「犬は爪を隠せぬというのは誠であったな」
「へェ、そう? 俺はこれ以上なく隠していたつもりだったんだけどな」
「俺には見せつけておるようにしか見えなかったぞ、片腹痛い」
 帯を解きもせず腕を組んでふんぞり返った桂は色事に特化した雰囲気を醸し出す淡い色の照明に照らされた布団の前で堂々と山崎を見下ろした。
「だが、助かった。ありがとう」
「──始めにそう言えよ、可愛くないヤツだな」
「貴様は俺に可愛気など求めていたのか?」
 きょとんと瞬いた桂は、悔しいが可愛かった。可愛気なんぞ求めたくはないのに、こうして変なときにそれを出してくるものだから気が抜けない。
 なかなか色っぽい部屋の雰囲気に染まってくれない桂をどうこうするのは早々に諦め、山崎は掛け布団を押しのけ敷き布団に胡座をかく。まだ突っ立ったままの桂を見上げ小さく笑った。
「まァ、お前とたまに一緒に働くのも悪くないね。楽しかったよ」
 大きく瞳を見開き暫し硬直していた桂は、稍あって全身に僅か震えを走らせ、訝しむ暇もなくタックルするように山崎に抱き付いてきた。勢いで押し倒され、というかそんな可愛いものでなく敷き布団からはみ出した後頭部を畳に強かに打ちつけ、眼前に火花が飛ぶ。そんな山崎のダメージなど意に介さず、元凶の桂は口付けを頬に、口元にぽつぽつと落とし、彼の好きな犬にでも懐かれているみたいだ。
 だが、犬猫を桂ほど愛していない山崎は、受けた衝撃から回復すると桂の羽織りの裾から手を這わせ、きっちりと着流した着物の上から臀部を確かめるように撫でる。
「──山崎」
 ぴたりと動きを止め軽く睨まれ、山崎は口角を吊り上げた。
「桂。俺、痛かったんだけど」
「俺は嬉しいぞ」
「うん、俺も嬉しくないとは言わないけどね」
 今ひとつ噛み合わない言葉をぽつぽつ交わし、瞳を見合わせて小さく笑う。鼻先をくっつけ、喉を鳴らしてひとしきり笑い合った。
 暫くそうやって、不意に二人真顔になって見つめ合う。
 どちらからともなく唇を重ねた。
 桂の長い髪が帳のように光を遮り、明かりが点けっぱなしなのにも拘わらず二人きり暗い部屋にいるようだ。それを掬い上げるように側頭部に両手を添え、石頭にぐりぐり額を押し付ける。互いの足の間に片膝が割り込み、着物越しに感じる雄はどちらも負けず劣らず高揚している。
「──しよう?」
「あァ…俺も、したいぞ」
 欲に掠れた音を交わし、相手の衣服に手をかける。露になる素肌に喉が鳴った。


2019.12.15.永


あきゅろす。
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