GROWTH
臨也(臨静)
 あ…まただ。嫌だなあ。また俺は、君を探してしまっていたみたいだ。


 今日は何だかつまらないな、なんて感じる日には共通点があった。せっかく池袋をうろうろしているのに静雄が一向に現れない、だとか。仕事はうまくいっているのに静雄だけがいない。いたらいたで騒いで喚いて暴れて臨也の邪魔しかしないのだから、別段いてくれなくて一向構わないのだけれど、それでも何故か、彼に会いたいような気がして静雄の行動範囲をふらふら歩いてしまう。
「──シーズちゃん」
 いもしない男の渾名をそっと舌に載せてみる。どこからか何かが飛んでくるわけもないけれど、何故か胸の奥がほんのり暖かくなった。それがとても悔しい。あんなにも嫌い、憎み合う男を、臨也だけがこんなにも欲している。
「変な呼び方すんなっつってるだろうが」
 だが今日はその呟きに返事があった。臨也は軽く目を見開き、思わず唇に弧を描きゆっくりと振り返った。
 予想に違わぬ静雄が電信柱に片手で触れ、落ち着きなく手の位置を変えたりしながらもしかし引き抜くことなく臨也を真っ直ぐ見据えていた。眉間には皺が寄ってはいるが、青筋はまだ浮かんでいない。我を喪いそうな怒りを堪えようというほどの強さも感じられなかった。
「やあ…シズちゃん。元気そうだね」
 彼の顔を見た瞬間鼓動はドキドキと高鳴り、体は勝手に楽しくなってきつつあるのに、静雄が動く気配がないものだからどうにも拍子抜けして、臨也はいつでも取り出せるよう袖の中のナイフに指先を触れさせ片足を引いて殊更に笑みを向ける。
「今日は俺に会いに来たんだろう、ノミ蟲」
 しかし続けられた言葉に息を呑む。自覚して静雄に会うためだけに街に出たことなど、一度としてなかった。静雄をからかいに行こうと思って出掛けたとしても、他の用も仕事もあったし、何より静雄をそんなにも意識しているなど認めたくなかった。
 それでも即座に静雄の言を否定できなかったのは、その意外性はさておき、少しばかりであろうともそれが真実足りうる根拠を己の内に瞬時に見つけてしまったからに他ならない。
 臨也は、何かのついでであるにしても静雄に会いたいという気持ちは割と常に保っていたし、静雄も概ねその期待に応えて臨也を追ってきた。でもそんなこと、自覚していないからこそ大っぴらに振る舞えたことで、一番の目的が静雄になってしまってはいたたまれない。獣のように色んなことに聡い静雄がたとえどう思っていたとしても、臨也までが彼の気付きを素直に認めるわけにはいかないのだ。
 黙って臨也を見据えていた静雄はその表情から臨也の葛藤をどこまで読み取ったのか、小さく鼻を鳴らして強情だなと呟いた。
「──俺が君なんかに会いたがるわけがないだろう。愛すべき人間ですらない君を」
 憎まれ口は力無く、その分だけ臨也自身に突き刺さった。言葉にすればするほど、自分がいかに静雄に会いたかったか痛感して、何をも言えなくなってしまう。
 こんなに好きになっていた。きっと最初から。だがそんなこと、決して認められはしない。
「シズちゃんなんか、大嫌いだよ」


2019.12.1.永


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!