GROWTH
桂と高杉(桂高、R18)
 元々派手なもの、綺麗なものが好きな男だったとは思う。だが、女物を纏うほど派手な着物に憧れていたとは知らなかった。しかもそれを指摘すると、高杉はそれが粋だと宣うのだ。幼少期の高杉の身なりがマトモだったのは、あくまで家人が衣類を選んでいたからなのだろう。
「高杉、貴様の粋は歪んでいるとは思わぬか」
「盆だろうと正月だろうとズルズル蕎麦ぁ啜るのが粋だってェのか。大輪の花火も美しいぜ」
「俺はズルズル啜ってなどおらぬ! このように優雅にだな」
「は、てめェで言っちまっちゃァ終いだぜ」
 きっと互いに、お前には言われたくないと思っている。もしかしたら話題が服装のことなどでなくとも、もっと幼い頃からずっと。
 というか、短い単衣なのに片膝を立てて座り酒を呷る高杉よりは余程桂の食事の方が粋だと思う。これでは正面に座した桂に、その着物の中身まで見えてしまいそうだ。
「高杉…その丈で膝を立てるな」
 一杯の掛け蕎麦を食べ終え、器をそっと置きながら眉を寄せる。
 高杉は一度きょとんと瞬いて、喉を鳴らし肩を震わせて笑った。
「わからねェか、ヅラぁ。俺ァこうやって誘っているんだぜ」
 頭痛すら覚え、桂は大きく息を吐いた。
 高杉はいつもこうだ。
 これ見よがしに餌をちらつかせて、相手が食いつくのを待っている。決して強く推さず、獲物があくまで己の意志でそれを掴み取ったのだと思わせるように。
 これはもしかしたら、桂に対してだけ垣間見せる、拒絶されることを恐れる臆病さなのかもしれないけれど、面白くないことには変わりない。高杉の一挙手一投足を桂だけが気にしているみたいだ。
 桂は自分の前の器を脇に除け、ゆっくりと腰を上げる。幾度も逢い引いた出逢い茶屋だ、隣室に褥があるのはわかっている。
 襖に手をかけ、座したままの高杉を振り返る。
「──来い、高杉。はしたない貴様に仕置きをしてやろう」
 僅かに目を見開いた高杉は唇の片端を持ち上げ、声立てて笑う。
「はっ、逆に食い尽くしてやらァ」
 少し弾んだ音を出し、桂が最低限の隙間から隣室に一歩踏み込んだ瞬間、待てを解除された犬のような勢いで背後から抱き付かれた。これがもし犬であるならどうしようもない馬鹿犬だ、エリザベスより躾に手こずるだろう。
 桂は首に回された高杉の腕を掴み、朱色の布団の方へ半ば投げるように押し倒す。
 敷き布に髪を散らし、高杉は喉を鳴らして桂を見上げる。乱れた着物から露になったすべらかな足が、ゆっくりと自ら開かれる。桂の体で影になったそこは、下帯に守られずあからさまに高揚をさらけ出していた。
 咎める気にもなれずに掴んだ腕を褥に押し付け、空いた手で高杉の帯の結び目を探る。腰を浮かせ協力した高杉の帯を抜き取り、捕らえた手首に絡ませた。
「──変態」
 くくっ、と笑う高杉の余裕が面白くない。いや、この程度で変態と感じるくらいに初なところを残しているなら、かぶいたなりをしているだけに一入愛しいかもしれない。
「仕置きだと言っただろう。そちらの手も貸せ、縛ってやる」
 片眉を持ち上げた高杉が少し躊躇いがちに差し出した両手首を纏めて帯で結わえる。高杉は眉根を寄せたが、抵抗はなかった。代わりに殊更に唇に笑みを掃き、束ねられた手首を桂の項に回しぎゅっと抱き寄せてくる。
「で? この後はどう仕置くって?」
 彼の余裕が強がりである証に、触れ合った胸はいつもより冷たい。Sでもない桂が、始まってしまったお仕置きプレイで、この先はどうするか真剣に悩んでいるのだけはバレるわけにいかない。桂は高杉に、何でもこなせる粋な男ぶりを見せ付けてやらねばならないのだから。


2019.9.28.永


あきゅろす。
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