GROWTH
沖田と近藤(沖高、桂高)
「総悟。本当のことを言ってくれないか?」
「…──」
「お前が、高杉を利用していたんじゃなく…本気だったのなら、俺達はお前を殺すしかないんだ」
「──近藤さん…」
「俺はお前を殺したくない。だが、お前が黙り続けているのは、つまり…そういうことなんだろう?」
「俺ァ──」
「本気なら、俺はお前を一度だけ逃がす」
「──…?」
「お前が高杉の仲間として再び俺達の前に現れたときは、今度こそお前を見逃せない。でも…俺達はもう、総悟の戻れる‘仲間’じゃねェのも確からしい」
「──俺が、アイツに惚れたからですかィ」
「笑えねェ悲恋だ…相手と立場が悪かったな」


 ずっと覚悟していたつもりだったが、近藤に下された結論は予想以上に沖田を打ちのめした。高杉は確かにテロリストであり、その行動の源にどんな優しいものが隠されていたとしても犯罪者である事実は変わらない。
 それでも、近藤ならなんだかんだで自分の道は曲げないままでいた沖田を容れてくれる気もしていたのだ、伊東のことのあった折土方に処分を下した彼がそこまで甘ちゃんでないことは知っていたはずなのに。
 ──とはいえ、これが近藤なりの精一杯の譲歩であることもわかっていた。コトが近藤の胸の内にしか知れていないならばともかく、周囲から囁かれては沖田のためにもこうするしかなかったのだろう。
 沖田は隊服を畳んで部屋に置き、私服の着物に袖を通す。着物にしまえる程度の現金と、刀だけを持っていつもとまるで変わらぬようにふらりと屯所を出た。下の隊士までは情報は伝わっていないのか、笑顔で送り出してくれるのに片手を上げ、二度と戻れぬところへ突き進む。
 特段宛てはない。
 武州を出るときは、みんなの後について行けば良かった。しかし今は一人で、田舎に帰ったとしても姉も家もない。さて自分に何ができるかと考えても、刀を振るう以外に何も浮かばない。高杉にすがりつくのも嫌だった──という以前に、呼び出し方も現在の居所も知らない。次の約束まではまだ日があった。金はさほどなく、それなりに貯まっていた通帳は置いてきた。とはいえ貯金も、ミツバの生きている間はほとんど全額を送金していたから、それ以降出すのも面倒でそのままにしていた分といった程度にはなるが。
 どうしたものかと橋のたもとにたむろする浮浪者を見下ろし息をつく。
「どうした、青年。困り事か」
 と、足元に座った虚無僧がぼそりと話し掛けてきた。
「悪ィが布施する余裕は…なんでィ、桂か」
 面倒であるのを隠しもせずに視線を送った先にいた桂は、あんなに自分を追い回していた沖田を真っ直ぐ見上げた。
 ──彼は、知っているのだろう。桂は、そのふざけた表情だけでない、決して侮れぬ情報網と人脈を持っている。そして、袂を分かっているとはいえ、沖田の手の届く範囲にいる者の中では最も高杉に接触しやすい人物でもあるはずだった。
「貴様が望むなら手引きするのも吝かではないぞ。恩を売って損はない男だからな」
 沖田は座した桂の真っ直ぐな瞳を見下ろし、無表情でゆっくりと口を開いた。
「──じゃァ、ひと月飯が食える、俺にもできそうなバイトを紹介しちゃくれねーかィ」
 桂は軽く目を見開き、そしてふっと笑った。
「そうか──」
 桂は静かに腰を上げ、数歩行きかけて振り返る。
「どうした、来ないのか? ママに紹介してやろう」


─ ─ ─ ─ ─

 高杉は、己が地球を離れている間に真選組の沖田の立場が大きく変わった事情に関しては、おそらく正確に理解していた。その後、何故か桂のつてを頼ったことも、その結果今はどこで働いているかも聞き及んではいた。
 だが、知っているのと実際に見るのは違うものだとしみじみ思う。
 ひとまず客として訪れてみたかまっ娘倶楽部で高杉を迎えてくれた女装の沖田と女装の桂に両側から腕を掴まれ強引に招き入れられる。二人とも化粧はしっかりしているが、目が笑っていない。工事してはいないのだろう二人の女装の男は、下世話な表現をすると元彼と今彼であり、高杉は頭痛すら覚える。
 半ばヤケでねだられるままにそれぞれに酒を入れてやった。そして、得意気に小鼻を膨らませる桂の視線を意図的に無視し、とにもかくにも沖田の腰を抱き耳元に顔を寄せた。
「──迎えに来たぜェ」
「あァ──待ってたぜィ」


2019.8.29.永


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