GROWTH
臨也と正臣(臨静、R12)
 自殺志願の少女との待ち合わせを嬉々として語る臨也は、正臣の語彙でいうと真っ昼間のスタバではこの上なく浮いていた。だが、四方八方からいろんな声と交通の騒音が飛び交う都会では、印象に残るのは非常に楽しそうなその表情だけなのだろう。正臣は心底げんなりしながら、自分の前で本性を隠さなくなった男を眺める。
「ここ、何のためにあるか知ってますか」
「は…何、君のためとか言ってほしいわけ?」
「──悪い冗談っすね」
 少なくとも、臨也のためでないことは確かだ。どんな店でも物でも人間でも、臨也に玩ばれるためにそこにあるものなど存在しない。
 だがしかし、臨也はそうは思ってはいないようだった。莫大な情報をその小さな頭に叩き込み、こね回して生活の糧を得ている彼は、さながら世界を掌握した気でいるのだろう。自惚れも極まった彼にかかれば、全世界は臨也の玩具でしかない。それを食い止めてやろうなんて正義感は流石になかった。
 昨日会った女は、死んだらしい。臨也は何一つ手を下さずにだ。臨也は彼女に指一本触れず、ただその話を聞いて、そしてその思考を誘導して、彼女に生死の境を越えさせたのだ。
 見たこともない一人の女の死を聞かされた正臣には、非日常であるはずの死がとても日常的で、意に介することでもないような錯覚があった。戦争をしている国にいるわけでもないのに臨也の通った後に死屍累累と転がる命が、当たり前のようにそこにあった。
「あんた、楽しいですか」
 口に出した瞬間、後悔した。楽しいに決まっていた。彼の思い通りに全てが転がっているのだ。彼は予想を裏切られることも、思い通りに全てが動くことも大好きだった。つまり彼は人間の生活に介入し、その心を揺さぶる力になれたならなんだって楽しいのだ。その結果として少女が死のうと命を繋ごうと、どちらにせよ楽しむ下衆なのだ。──尤もこの男は自分を高等種だと思っているようだけれど。
「楽しいかだって? 楽しいに決まっているだろう? この街に存在する多くの人間達を観察し、そしてその絶望を目の当たりにできたんだ! 正臣君にはわからないだろう、絶望の元に死んでいく女がどんなにいい表情をするか。セックスなんかよりずっと魅力的なんだよ」
 こんなにも胸糞悪い話を高らかにしていても誰も聞き咎める様子もなく、警察も呼ばれない。都会はみんなどうかしている。その中でマトモな感情を露にした平和島静雄が窓の外にちらりと見えた。と思う間もなく青筋を浮かべた静雄が地面を強く蹴り、スタバの二階に突撃してくる。
「あはは! やっぱりシズちゃんは馬鹿だなあ! 縄張りすらも理解できないなんて獣以下だね!」
 臨也は声を立てて笑い、正臣を放置して踵を返す。ガラスを体で破って突入してきた静雄は臨也しか目に入っておらず、臨也もこうなっては静雄しか見えない。さっきまで一緒にいた正臣のことも、昨日死んだ少女のことも、どうせ彼の記憶の彼方に追いやられているのだろう。


2019.8.15.永


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!