GROWTH
臨也と静雄(臨静、R15)
 男が恋人に服を贈るのは、決して着た姿を愛でるためだけではない。着てくれた姿を楽しんだならその次は、脱がせたいものだと思う。だから、メンズは自分での着脱のしやすさが重視されるのに対し、レディースは他者の介助の余地があるのだ。
 だが静雄のために用意した数多の女性物の服は、静雄を決して喜ばせなどしなかった。せっかく静雄のサイズのレディースなんてものを何着も特注したのに、弟の贈った服をいたく喜び毎日仕事着として使っている静雄が、他ならぬ恋人の贈り物を受け取るなりよく見もせずにゴミ袋に突っ込もうとすらしたのだ。
 捨てられるのだけはと体を張って止め、いきり立つ静雄の瞳を真っ直ぐに見据え大きく息を吐く。
「違うよ、シズちゃん。君は何もわかってない」
「んだと…手前は何をわかってるっつうんだ」
「あのね、シズちゃん。レディースは脱がせやすいように出来ているから、君に似合うと言ってるんだ!」
「だからその繋がりの意味がわからねえっつってんだ! 俺は男だ!」
 男物と女物の衣服の重ね方が逆なのはあまりに分かり易い話である。フェミニストや男女同権主義を語る連中が女性の衣服の脱がせやすさについて語らないのはある意味奇妙でもあるとすら思う。女は男に抱かれることが当然で、感情の方はどうあれ衣服は常に相手の男との行為を容認してすらいるのだ。だからこそ、静雄が臨也の手を受け入れる女性物を身に付けることには意義があった。
 それを滔々と語るのを静雄は呆れかえった瞳で眺め、臨也の息を継ぐタイミングにぴたりと合わせ大きな溜息を割り込ませた。
「だったら女にしろよ。手前の好きな服を何でも着てくれる女に。その方が絶対に似合うだろ」
「わかってないなあ。俺は君の服を脱がせたいと言っているのに」
 会話は平行線のままのようではあったが、静雄の瞳が今度は微かに揺らいだ。
 恐らく臨也の選んだ服が静雄の許容範囲内であったなら、話はずっとスムーズに進んだのだろう。だがそれでは面白くなかった。それに、なんだかんだいってお人好しな静雄はきっともう一押しで落ちそうだった。
「いいじゃないか、シズちゃん。ちょっと着てくれたらすぐ俺が脱がせてあげるし、その分君のことも楽しませてあげるよ」
 静雄が小さく息を呑み、稍あってぎくしゃくと顎を引いた瞬間、臨也は喝采を堪えるのが精一杯だった。
 とはいえ、静雄の眼鏡にかなう服の許容範囲が非常に狭かったため、ほとんどの物がボツになった。
 裸エプロンもメイド服もナース服もミニスカポリスもセーラー服だって、全て破かれなかったのが奇跡のような扱いを受け、どうにかこうにかパンツスーツを着ていただくまでにもたっぷりと悶着があった。バーテン服と大差ないと納得させたそれでも、やはりメンズとレディースでは明らかに違う。具体的には、体のラインが違っていた。その腰の形であるとか、細さであるとかをあからさまに見せ付けつつ、ふくよかさのかけらもない体のウエストを優しく絞り少し柔らかなシルエットにしている。まるで誘っているようだ。
「最高だよ、シズちゃん…!」


2019.7.7.永


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