GROWTH
沖田(沖土、R15、監禁)
 綺麗なモンは汚したくなりやせんかィ?
 けど、そいつが、モンじゃねぇ、イキモンで。クソムカつくヤローだったら。
 やっぱ、汚してぇ。けど、そうして、嫌われたら…
 だったら、いっそ、壊しちまやぁいいんでさぁねィ?
 嫌うことも、ケーベツすることも、できねぇように。
 そうでしょう?
 けどねィ──あいつ、やっぱ、すげぇムカつくヤローなんでさぁ。
 壊そうったって壊れやしねぇ。頑丈なのも困りモンでェ。
 なのにねィ、俺を憎むこともできねぇんだ、あいつァ。
 俺ぁ、どうしたらいいんですかねィ?


 副長が失踪してから数週間が経過した。
 山崎は何も言わないが、感付いてはいるらしい。錯覚ではない、自分しか知らないはずの土方の潜伏場所に、買い足してやりもしない煙草が無くなる気配もないのだから。土方自身は確実に外出していないし、禁煙もしていないのに。
 しかも、業務だって一向に支障が出ないのだ。彼の姿がないことでやや士気が落ちている気がしないでもないが、指示はこんな状況でもしっかり届いている。
 捕まえたはずなのに、まるで手に入らない。それでも解放なんかできるはずはなく、今日も勤務終了後に自室の畳を持ち上げた。
 床下に拵えた穴蔵は、日こそ射さないもののこざっぱり整えられていて、誰かに見られても仕事部屋だと言い張れそうな有り様だ。土方の喉元で存在を主張する、本革の首輪を除いては。
 自室の電気を消し、灯りひとつ持って床下に滑り入る。畳を戻すと、光源はぼんやりした懐中電灯のみになった。
「よぉ」
 ちゃり、と鎖が鳴る。
 その声は、こんなところへ数週間も閉じ込められているとは思えないほどぴんぴんしていた。
 鎖の短さのせいで中腰に躙り寄ってきた土方は、ひょいと沖田の手の中を覗き込んだ。
「なんも持ってきてねぇのか…」
「あんた、自分の立場わかってねェでしょ?」
 沖田の所持品が刀と懐中電灯だけだと分かると、土方はあっさりと元いた机がわりの段ボールの前に戻る。
「ペットは飯が大好きなんだぜ」
 事も無げに吐かれた言葉は掴みどころがない。
「あんたがペットなんてェタマですかィ」
「逃げてねェだろ」
 土方の手の中でのんびりライターが跳ねる。
「──体だけじゃねェですかィ」
 咥えた煙草に火がつけられた。
 小さな光源に照らされた瞳が、ちらりと沖田を睥睨する。
「それ以上のモンが欲しいのか?」
「…は、誰が」
 だよな、と全てを見抜いた瞳がにやりと笑んだ。
「んな寝言、こんなマネしてほざきゃあしねェよなァ」
「──ずいぶんと快適そうですがねィ、あんた」
「んなこたァねェぜ、マヨも煙草も、ライターのオイルだって足りねェ」
 あげられた彼の必需品達は、未だどれひとつとして底をつく気配はない。
 沖田は小さく息をついて、板にゴザを敷いただけの床へ腰を下ろした。足下にたるまった鎖をひくと、嫌そうな視線が向けられる。煙草が灰皿で揉み消された。
 構わず力尽くで引き寄せ、近づいた顔を、顎を掴んで持ち上げる。
「──やりたきゃあマヨのひとつやふたつ持って来いよ」
「あんたのカラダは随分安いんでさァね──」
 嘆息した瞬間、つよい瞳が沖田を見据えた。
「俺が、なんだってここにいるか、考えたことはあるか」
 ちゃり、と金属が軽い音をたてた。
「そんなァ──」
「いつまでもお前がそんなんなら、俺ァこっから出るぜ」
「逃がしやせんよ」
 喉から漏れた音はやけに獣じみていた。
「絶対に──逃がしたりなんかしやァせん」
「やってみろよ」
 繋がれた鎖をちゃらちゃら鳴らし、彼がわらう。
 鎖を握っているのは、土方だ。そして、その先は──


2012.3.23.永


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