GROWTH
臨也と静雄(臨静、R18)
「ああ! 楽しいなあ、楽しいなあ! この僕の知らないことがまだこんなにあったなんて!」
「手前…っ…どこまで俺を馬鹿にしたら気が済むんだ」
「酷い言い掛かりだね、いつ俺が君を馬鹿にしたとでも?」
「いつもいつも、たった今もだろうがああああああ!」
 静雄が、初物であった。弟に少し似て顔の悪くない彼は、いくら乱暴であるとはいっても一度や二度はそういうこともあっただろうと思っていたのに、未だ純潔が保たれていた。別に初めてでなくてはいけない訳ではないが、やはり嬉しい。
 だがその感動のままに浮かれる臨也の姿は何故か静雄をいたく傷つけたらしい。
「酷いなあ、俺は君と初めて体を重ねる男になれる幸運をただ喜んでいるだけなのに」
「手前…俺とやりたいなんて頭のおかしい男が手前以外にいるわけねえだろ」
 低く唸る静雄の頬は血の色に染まっている。あんなに強い静雄が、同意のうえで臨也と体を重ねようとしているのだと改めて実感し、信じてもいない神に感謝した。
 彼はこんなにも、こんなにも魅力的なのに、それが誰の目にもかからずにいたなど幸運以外の何物でもない。
「シズちゃん──」
 惹き寄せられるように重ねた唇は、拒まれない。
「ん…っ…」
 舌で口腔を辿りながら、手探りで胸元のボタンを外していく。肌を露出させないバーテン服も、ボタンを、ネクタイを外してしまえばそのガードのかたさと相俟って逆に卑猥だ。
 ベッドに彼を仰向けに横たえ、舌を絡ませる。たったそれだけで高揚したいざやを衣服越しに彼のそこに押し付けた。しずおも負けず劣らず熱と硬度を保っていることがありありとわかり、それが嬉しい。
 口付けを解いて、首もとを伝いゆるゆると下がっていく。鎖骨に歯を当てると、静雄は微かに身を強ばらせた。
「──シズちゃん…」
 その少し怯えたような反応が楽しくて、牙に力を込める。しかしそこは僅かにへこむだけで皮膚を破ることすらできそうになかった。
「っ…は──」
 それは、静雄にとっては一応は痛みに近い刺激であるはずなのに、彼はどこか恍惚とした息を零した。それにぞくぞくして自分の唇をぺろりと舌でなぞる。
 はだけた彼の胸元を唇で辿り、いつしかぷっくりと芯を持って勃ちあがった尖りに舌を絡ませた。淡く吸う、と彼が小さく身を震わせる。
 あんなにも殴り合い、殺し合っていても、彼の体がこんなに敏感であることを、ナイフを通しもしないかたい皮膚は素手で触れるとこんなにも柔らかく温かいことを、まるで知らなかった。彼に心も体もさらけ出し、抱き合うことができる日がくるなど、想像もしなかった。
「シズちゃん…」
 茶色い静雄の瞳を覗き込み、素肌の上半身を重ねるように彼に抱き付いた。与えられたささやかな刺激から快感の種を少しずつ拾っていた静雄は唐突さに少し瞳を見開いて臨也を抱き留め、その額に唇を押し付けた。
「本当に手前は訳がわからねえな」
 その音は言葉ほどの強さは持っていない。だからひねくれていると自覚している臨也の胸にもすとんと落ちた。
 臨也は静雄の頬を両手で挟み、鼻先を触れ合わせる。茶色い瞳がとても澄んで見えて、胸の内が火の灯ったように暖かくなった。
「シズちゃん──好きだよ」
 返事も聞かずに唇を重ねる。それをただ黙って受け止めたのが、彼の返事だ。
 まさかこんな風になれるなど高校生の頃は考えもしなかった。


2019.5.10.永


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