GROWTH
桂と高杉(桂高、R15)
 とったどー! なんて、どこかで聞いたようなそうでもないような掛け声を張り上げ久々に高杉の前に現れた桂はスリットの深いチャイナドレス姿だった。
 いつもの女装より化粧が薄い彼はその姿を高杉に見せるつもりはなかったらしく、路地裏で鉢合わせた高杉に一瞬動揺を露にした。
「止めてくれるな、高杉! 俺はオカマ道を極めると決めたのだ!」
「いや…そりゃァ好きにしやがれたァ思うがよ。ときにてめェ、逸物の方は無事なんだろうな?」
「えー、と…その…高杉…?」
「いくらなんでもこの俺の楽しみ、てめェの思い付きで奪ったりはしねーよなァ?」
 そのせいかいやに大きな声で聞いてもいない宣言をしてくるものだから、高杉も徐々に状況を飲み込んだ。軽い口調で圧をかけてはみたが、実際のところがどうなのか、ブツをとったどーしたのか、それは非常に重大な問題ではあった。しかし薄暗い路地で桂の股間の辺りを睨んでみても、真実は今一つわからない。関係性からは許される暴挙だとしても、天下の公道で一見男か女かわからぬヤツの股間を鷲掴むのも嫌だった、何よりもまず矜持が許さない。
 思えば精通して間もない頃より幾度も体を重ねてはいたが、一度たりとも役割は変わらなかった。お陰ですっかり開発され尽くした感がある。そのせいか銀時に対抗するように買った女といざ部屋に入ってもどうしていいかわからず、しかしムラムラはするものだから目を血走らせて酒を飲むしかなかったなんてことすらあった。それでも別に桂との夜の関係性自体に不満はないのに、別れ話のひとつもなく逸物を取ってしまわれては立つ瀬がない。返答如何によっては己の過ちごと桂を斬り捨てるしかあるまい──
 撒き散らされる殺気に桂が気付かぬはずもなく、存外優しく手を取られた。高杉のことはいつもぞんざいに扱う桂のその優しげな接触すら、この期に及んでは癇に障る。
「高杉。俺の塒に行こう。宿を取る金は今の俺にはない」
「──てめェが金を持っているなァ見たこたァねーが」
 憎まれ口を叩きながらも、桂の手は払わずゆっくりと歩いた。
 いい年した男が己より背の高い女に手を引かれているように見えるかもしれないが、構うものか。今日のかぶき町を闊歩する奴らはどいつもこいつも様子がおかしかったし、それにどんなときであれこんなに癇に障るこの男と堂々と手を繋いで歩けるのは嬉しい。もし、普通の恋のように誰憚ることなく互いの立場を尊重したまま想い合い、それを他者に知られても奇異の目をどこからも向けられなくなるのであれば、彼が彼女になってもいいのかもしれない。男性らしからぬ快楽を他ならぬこの男に存分に仕込まれこそしたが、当初よりほんの僅かだけモヤモヤしていた閨の立ち位置をひっくり返すのも悪くはないかもしれなかった。


 大勢の攘夷志士の屯する狭い家屋の最奥までいざなわれ、隣に並んで座ってどちらからともなく唇を重ねる。ここまで連れ立って歩く内に、幼なじみが男であろうと取っていようとどちらでも構わない程に期待だけが高まっていた。なんせ久しぶりである。
「──高杉。俺は取ったが、取っていない」
 しかし二人きりになって一頻り唇を啄んだ後、和室にキチンと正座した男は背を凛と伸ばし堂々と言い放った。訳のわからない言葉と、チャイナドレスの深いスリットからはみ出す肌色の腿、少し遠い喧騒に薄化粧──全てにムラムラして、そのせいで彼が落ち着いているのが一層腹立たしい。
「どういう──」
 しかし噛み付きかけた言葉は桂に手を取られ、彼の股間に導かれることで宙に途切れた。そこにあったのは確かに逸物のようではあったが、それはくたりと萎えて柔らかかった。
 桂の逸物に触れる関係になって以来この方、ヤツのそれがそんな状態であるのを突き付けられることなどついぞなかった高杉は大いに驚き、そして口角を吊り上げた。
「ほォ…つまり、勃たせられるモンならヤってみろってェことかい」


2019.4.21.永


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