GROWTH
桂と近藤(桂近、学パロ、R15)
 ある日登校したら、近藤の下駄箱に白い封筒が入っていた。表にも裏にも何も書かれておらず、下駄箱の外側に記名はない。宛先間違いかもしれないが、確かに近藤の場所に入っていたのだからとりあえず開けてみたら、今日の放課後に屋上に来るようにタイピングされていた。あまりにも素っ気なさすぎて実感が湧かないが、もしかしたらこれは夢にまで見た志村妙からのラブレターかもしれない。
 自慢ではないが近藤は全くモテない。あまりに事務的過ぎる封筒と文面に女らしさは全く感じなくとも、やっぱり半分くらいは何かを期待してそわそわしてしまう。
 そうしてじりじりしながら1日の授業の終わるのを待ち、ホームルーム終了のチャイムと同時に教室を飛び出し一路屋上を目指す。リーチに任せて階段を五段飛ばしで四階分駆け上がった結果、少し汗ばむ。屋上に通じるドアの前で近藤は息を整え、そっと重い扉を開き──
 しかしそこには誰もいない。
 当然といえば当然だ。たった今本日の予定が終業したばかりで、近藤を追い越してきた者はいない。不良少女でもない志村妙はきっと今から歩いてきてくれるのだろう。
 そわそわと無駄に屋上を歩き回り、五分後。現れたのは桂だった。
「近藤、待たせたな」
 別の用と言うことを期待したが、そう声を掛けられては彼が差出人としか思えない。
「えっ…と──桂? 俺に何か用か?」
 朝から無駄に膨らんでいた気持ちが萎んでいくが、勝手に勘違いしたのはこちらなので彼を責めようもない。それに、手紙にはそもそも甘いことを期待させる表現は一切なかった。ただ、来いと命令されていただけだ。
 近藤にずかずか近付いてきた桂は近藤の手を奪うように握り、真っ直ぐな目で見上げてきた。
「俺は貴様が好きだ。付き合おう」
 告白は、とても男前だった。近藤の意思確認すらしない程の傲岸不遜っぷりだった。もじもじと可愛く志村妙が告白してくることを想定していた近藤の、せっかく取り直しかけていた気持ちがガラガラと崩れていくのがはっきりわかる。
 予想は外れていたが、的外れではなかった。桂は見ようによったら女にも見え…いや、見えないが、まあ綺麗な髪はしていた。生活に困ってオカマバーでアルバイトをしているという噂もあり、そっちの人でも驚きはしない。
 近藤は混乱の絶頂で桂に視線を釘付けにする。
「っ…いや、俺は──」
「どうした、何か支障があるのか?」
「いや、支障っていうかその…」
 支障というなら支障しかない。だが、頭が纏まらないうちに優しく何か気になることがあるなら言ってみるがよいなどと言われ、つい常日頃からの悩みを吐露してしまった。桂の耳に口を寄せ、他に誰もいない屋上で声を潜め、そっと告げる。
「俺はケツ毛がボーボーだから…」
 言ってから、自分では最高の断り文句だと思った。付き合うとなればそれを見られるのは避けられまい。だが、そんな関係まで進んで引かれたらあまりに悲しい。
 しかしこれは今言うことではなかったらしい。その一言が、辛うじて貴公子の様相を保っていた桂の理性を剥ぎ取ったのだから。
「何、尻の毛が気になる?」
「ちょ、声デカいって、桂!」
「貴様、人の陰毛は何のために生えておるか知っているか」
「へ? ──大事な場所を守るため?」
「そうだ、そしてまた成熟した身をアピールし繁殖可能な個体であると証しておるだけのこと」
「──すまん、意味がわからん」
「つまり、貴様の体は尻に常人より多い毛を生やして大事な尻を守るばかりか、尻で繁殖可能だと主張しておるのだ! 何も問題はない、さァ尻を出すが良い。俺が種をつけてやろうではないか」
 だが、結果的にはそれでも良かったのかもしれない。桂もアリかもしれない、ととんでもないことを大真面目に宣う秀麗な男前に気持ちが傾いたのだから。


2019.1.18.永


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