GROWTH
近藤と土方(下品注意、誰か×近、誰か×土)
 近藤にいやに深刻な表情で私室に呼ばれたとき、心当たりの全くなかった土方は、また志村妙かとうんざりした。だが、話が始まるとすぐに、女のことであった方が余程良かったのにと思った。これはきっと、近藤なりの信頼の証ではあるのだろう。そうだろうがしかし、これは言う相手を間違っている。
「トシ…ケツが、痛い…」
「あ?」
「脱肛した…」
「はァ!?」
「ケツが痛すぎてウンコもできないんだけどどうしよう!?」
「馬鹿! もっと優しくシてもらえ、いや先に病院──」
「うわァァァん! トシィィィ!」
 それは確実だが、聞いてしまったからには流してしまうわけにはいかない。何しろこれは由々しき事態だ、ピンポイントでその経験こそないが、あそこの少々のトラブルなら残念ながら土方とてある。人に相談したことはないが、敢えて近藤が土方を選びそんな話をしたことは、隠していたつもりのあれこれがバレていたからかもしれない。だが自分のことは二の次だ、とにかく目下彼の身に起こるあまりに不名誉な事態を、なんとか広まらぬ形で決着つける必要がある。真選組の局長が、こんな──
 そこまで思いを巡らせた土方は、理由も告げず山崎を闇医者へ走らせた。この際だ、警察であろうともそういった者に頼るのも致し方ない。
 だが、山崎が行ってしまうと少しばかり冷静になり、この事態に至る原因が土方のような理由とは限らぬことに遅ればせながら気付いた。勿論、そういったこともあるだろう、だがそれよりはもっと健全な原因だってあるはずだ。だって近藤はどこから見ても非常に男らしい体躯を誇っているし、尻の双丘からはみ出さんばかりの毛だって蓄えている。
「ところで、近藤さん」
「なんだ、トシ」
 山崎が医者を呼びに行ってくれたことで彼も少しく落ち着いたか、返ってきた声は存外に静かだった。だがそれでは逆に聞きにくい。
「近藤さんは、その…なんだ、あの──彼氏がいるのか」
 迷いに迷って吐き出した言葉は非常にストレートで、なんだか恥ずかしくなり頬に血が上った。
「えっ…うん、その、まァ、色々あってな」
 対する近藤は困ったように目を泳がせ、ぽりぽりと頬を掻く。
 個人の自由だからプライベートにあまり口を出してはいけないとも思うが、やっぱり動揺大きく土方は煙草を取り出し口にくわえた。一服つけようとマヨライターを擦る、が火花が散るばかりだ。ひょいと手を伸ばし取り上げられたライターは、近藤の手の中で暖かな炎を灯した。
 土方は深く息を吸い、肺一杯に吸い込んだ煙を吐き出す。ニコチンが血流に乗って頭まで巡る。
 ──原因は、ひとつとは限らない。だが、そのひとつの可能性が真っ先に思い至り、しかもそれが的中していた。これはつまり、仕事だけでなくプライベートですら、自分達が同じ穴の狢である何よりの証拠ではなかろうか。
 そう思うと頭痛がして、同時に少しだけ、嬉しくなった。
「なァ…トシも、その、男がいるのか」
「っ…あ、あァ…」
「へェ…俺だけじゃなかったんだなァ」
 笑ってくれる大将に、土方はそっと息を吐いた。


2018.9.24.永


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