GROWTH
沖田と土方(沖→山土、R12)
 捕らえるべき者を捕らえ屯所へ送り出した戦場で、次に気になるのは倒れた味方の安否であろう。
 土方なりに可愛がっていた山崎が袈裟懸けに斬られ倒れ伏したとき、彼は露にこそしなかったが確かに動揺していた。だから漸く味方の救護に取り掛かれざわつくそこで山崎に駆け寄りその体を抱き起こす。沖田もゆっくりと彼らに近付いた。
 山崎の意識はないようだが、どうやらまだ息はあるらしい。
「おいっ! しっかりしろ!今、マヨを飲ませてやるからな!」
 そう叫び死にかけの山崎の口元に携帯用マイマヨボトルの中身をぶちまけようとした土方の手を、間一髪沖田が押さえる。ぎゅっと自分より大きな手を掴み、彼の瞳孔開く目を真っ直ぐ見据えた。
「──土方さん、落ち着きなせェ。アンタ、トドメ刺す気ィですかィ」
「あ!? 何言ってやがる、こりゃァ気付けマヨだ。マヨを使やァ大抵のヤツは跳ね起きると相場は決まってるんだよ、邪魔するんじゃねェ。手遅れになっちまうだろうが!」
 こんなにもわからないことを土方が言うのは、山崎を愛し過ぎていたということだろうか。
「いやァ…アンタの頭が疾うに手遅れだってなァよくわかりやしたが。まァ落ち着きなせェ。死因がマヨよりゃァ、放って置かれる方がまだコイツも浮かばれやすぜィ」
 他にも数多いる負傷者のためにも呼ばれた救急車の光が現場を赤く照らす。助かる可能性がある重傷者が優先されるなら、山崎も対象だろう、微かに胸を喘がせる山崎の血がマヨを構える土方の足元に徐々に広がっていっている。
 沖田は土方を放置して救急隊員に手を振った、その背後で、ぶちゅるる…とマヨネーズをぶちまけたとしか思えない音がして、血腥いところに不釣り合いな香りが広がった。


 一ヶ月経っても山崎は生きていた。
 救急隊員にマヨネーズの海から拾い出された山崎の傷は、幸いにも縫い合わせることができたらしい。土方の愛情が悪く作用したとしか思えぬ所業が助けになったかは知りたくもない。少なくとも沖田は天地がひっくり返ってもそんな愛情ごめん蒙る。
「ザキもマゾ、土方もマゾ、近藤さんもマゾ…なんだって真選組にゃァこんなにマゾが多いんでィ」
 快気祝いに沖田の私室で酒を奢ってやりながら大きく溜息を吐く、と山崎は小さく苦笑った。
「俺はマゾじゃねーですよ」
「はっ…マゾでなけりゃァとっくに逃げるか、死んでるかのどっちかでィ」
「まァ生命力は強いかもしれませんけどね」
 人の酒だと思って遠慮会釈もなく盃を空け山崎は肩を竦める。
「生きてても死んでても同じですよ、副長に命預けちまったんだから、俺は。まァ死にたくはありませんけどね」
 飄々としている山崎は、もしマゾでなかったにしても相当に頭がイかれているに違いなかった。
 沖田は小さく鼻を鳴らし、そっぽを向く。
「でも、ありがとうございました。今回はアンタがいなきゃマヨの海で死んどったかもしれません」
「──最初からそう言やァいいんでィ」


2018.8.25.永


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