GROWTH
坂本(高坂、R15)
 三郎が死んだ。
 配下が死ぬことなど数え切れぬほど起こったことで、今更どうこう嘆くべきではない。顔を上げ、大局を見据え行動し続けないと、野望は達成出来ぬものだと知っている。
 ──だが、人間の肉体を持っている限り、いくら心を非情の修羅に堕としたところで休息が不要になりはしない。だから、坂本の誘いに応じたのに。


 そんな顔、せんとうせ。
 わしが聞いちやるきに、胸ん中ば塞ぎゆう辛いこと、みィんな出したらえいぜよ。
 ──心配なか、ぜーんぶ聞いて、ぜーんぶすぐ忘れゆう。誰にも言わんぜよ。
 わしゃァおんしが好きじゃき。笑っちょってほしいんじゃ。たァだ、それだけじゃき。
 わしゃァおんしの全部大好きじゃけんど、笑っちゅう顔ば一番好きじゃ。おんしの笑顔、守りたいち思うんが、そんなにおかしいがかー?
 ──アッハハハハハ! 愛しゆうよ。


 一発ヤって、そして軽くなった腰を上げ、先生や三郎を含む数多の菩提を弔うつもりであったのに。やはり商売女を買うべきだった。いくらタイミング良く坂本が袖を引いたとて、彼で手を打つべきではなかった。
 そう、理屈では思うのに声も出ない。
 高杉は一度上げた腰を下ろし、つい先程好き放題させてもらったままの、汗ばんだ裸の胸に手を触れる。彼の双眸を見下ろし、奥歯を噛み締める。
 言葉はない。
 きっと、何か喋ったらそれは、無様に震えた音になってしまう。
 坂本の大きな手が高杉の頬に触れた。視野に割り込む指が、制御しきれないもので歪んだ。
 大体が、男が誰かに弱音を吐けると思う前提が間違っている。そんなもの、ひとたび口にしてしまったならその足場ごと崩れ去ってしまうに決まっていた。
 ──だから。代わりに噛み付くように重ねた唇を黙って受け止めた彼に、感謝する。なんでもかんでも言葉に表象させることを要求したなら、互いにぎくしゃくするばかりなのだ。上手く言葉にならない分は、体を重ねて昇華したらいい。何も言わずとも彼と分かり合えると思うほど自惚れてはおらずとも、言えないことがたくさんある今は、彼も同じ想いを抱えてくれたらと願う。
 坂本の瞳が真っ直ぐに、全てを見透かす如く高杉を捉える。
 反射的に唇を離し、褥の脇に脱ぎ捨てた衣類を引き寄せた。
「おんしは、まっこと優しいのー」
「あ? …てめェの目は節穴か」
「見えとうよ。じゃき、優しかー」
 視線を逸らせない。だが、捕らわれていることを悟られたくなくて奥歯を噛み締め、殊更に坂本の邪気のない瞳を睨み付けた。
 彼の大きな手がゆるゆると高杉の膝に遊ぶ。
「大事にできるちいうんは、優しい証拠ぜよ」
「──大事なモンなら、守り抜くに決まってらァ」
 絡み合った視線が、堅く外れない。彼の姿がますますうるうる歪んで、たまらず唇を引き結んだ。その顎に坂本の温かな温度が触れる。
「おんしがそげに優しいき…わしゃおんしを好いとるんぜよ」
 震える唇を解く代わりに、ぎゅっと瞼を閉じた。
 脳裏にかつて共に戦い、今は根の国へ旅立った連中がありありと蘇る。坂本の二の腕を強く鷲掴んだ。


2017.12.5.永


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