GROWTH
山崎(山土、R15)
 往々にして、何かを指摘されたとき怒りに繋げる反応があると、それが図星だったのだと思うことにしている。
 拳を振り上げ構えたまま動かぬ土方に、山崎は口端を持ち上げた。
 使うことのできない力など、脅しにもなりはしないのだ。
「殴りますか?」
 びく、と弾かれたように彼の肩が震えた。力無く落ちた眼差しに構わず、大きく胸一杯空気を吸い込んだ。爪先立ちを強制されているせいで少しく息苦しい。
「いいですよ。俺ァアンタを抱き締めて、額に口付けてェ気分です」
 土方の手が緩み、支えを失った山崎の体が地に着いた。ぎくしゃくと離れようとする左手を両手で挟んで引き留める。
「殴られるくれェ構わねェ」
 殊更に淡々と、感情を含まぬ音を刷り込むように囁く。
「斬られたって構わねェ」
 力無いながらも抗いを見せた土方は、すぐに大人しくなった。
 俯いて表情を隠そうとしているらしいが、無駄だ。長めの前髪すら、下から見上げる山崎の視線を防ぐ助けにはならない。
「裏切り者でもねェ俺を殺すことは、アンタにできっこねーですからね」
 彼の体が強張る。冷酷な振りをしてみたところで、彼はどうしようもなく優しい。優しいから、大切なものを守る鬼になれるのだ。
「──バカ」
 もう怒る気力も失った優しい人。たった一人の、仲間の仮面を被っていた男を殺したくらいでこんなに消耗した優しく愚かな鬼。山崎に命じたなら、一瞬前まで肩を抱き合っていたとしても顔色ひとつ変えず葬り去れるのに、親しく見えた関係に遠慮して自ら手を汚した愚か者。
「アンタには、俺がついてます。何があったってアンタの背中守ります。だから…っ…」
 不意に山崎を捉えた瞳に息を飲む。
 ゆっくりと寄せられる唇を拒む理由などありはしない。
 ただ重ねるだけの口付けなのにたっぷりと時間をかけ、ほっとどちらからともなく息を吐く。
「──俺は、てめェにそう言わせるべき男じゃねェ」
「アンタがどう言おうと、監察方は副長直属なんですよ」
「なら…仕方ねェな」
 言い訳を許せる役職に山崎を据えたのは、故意なのだろうと思っている。こんな副長に寄り添うヨゴレ仕事、他の誰にもできはしない。
「信じねーかもしれませんけど…いや、信じねーでくれる方がいいんですけどね」
 土方の瞳に焦点を合わせ、そっと笑みを浮かべた。
「俺は、アンタが好きですよ」
 土方の瞳孔が小さく震え、ややあって瞼を閉ざす。低く唸るように呟いた。
「死ぬまでこき使ってやらァ」
「はい」
 不器用な鬼の飼い犬になれるのは、俺しかいない。


2016.4.10.永


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