GROWTH
沖田と近藤、高杉(3Z、近高)
 調理実習。籤で決まったメンバーは明らかに良くなかった、と近藤は肩を落とす。学年最後ということもあり、メニューは生徒の自主性に任せ、当の家庭科教師はインフルエンザで休んでしまった。仕方なく料理好きでもない男三人、湯で豆腐を煮たらいいのだろうとあっさりメニューを決めたものの、買い物当番沖田は当日の朝までそのことを忘れていて、致し方なく家にあるものを持ってきたとのたまった。
 それぞれエプロンと三角巾を纏い、これ以上なく似合わない服装で騒がしい調理室の片隅に陣取る。
 沖田の持ってきた古いスーパーの袋を覗いた高杉が重々しく言った。
「──豆腐がねェ」
「ええッ? 湯豆腐しようって言い出したのはお前じゃないか、高杉!」
 買い出し担当が沖田一人だったことも忘れ声を上げる、その近藤の肩をぽんと叩いて沖田が表面上だけ王子のように微笑む。
「仕方ありやせんねィ、コレを代わりにしやしょう、近藤さん」
 そう言って袋から何かを取り出す。が、しかし。
「いや、あの、総悟。ソレ、どう見てもピーナッツなんだけど」
「豆なんだから同じでさァ」
 唖然とする近藤を後目に、何故かこんなときだけチームワークを発揮した高杉と沖田はてきぱき動く。
「えェ…ってもう入れ──高杉? 何してるの、お前」
 水を満たした鍋を火にかけざらざらピーナッツを放り込む姿に頭痛すら覚え、なんとか言ってもらおうと振り返る。しかしこのメンバーに常識人は他におらず、なにやら緑色のものと土色のものを包丁で刻む高杉しかいなかった。
「腐ったジャガイモならあったからよ…豆と合わせて湯で煮りゃァ湯豆腐だぜ」
「お前、上手いこと言ったつもり? 滑ってるからね、どうしようもなく…ってあァァァァァ! 入れちゃダメ! 本当に死ぬよ、コレ!」
 焦る近藤を置き去りに、ぬめぬめしたジャガイモと、いやに鮮やかな芽が鍋に放り込まれてしまう。何故か得意気な高杉が解せないし理解したくもない。
「ゴリラの胃なら分解できるだろうぜ」
「俺は人間ンンン!」
 こんな大騒ぎをしている生徒達を止めにも来ない教師はどうかしている、と救いを求め振り返る、とすぐに彼が来てくれなかった理由が判明した。
「ちょ、志村、ギブギブ…」
「あら? せっかく美味しくできたんですもの、遠慮しないで味見してくださいな」
「遠慮じゃねェェェ!」
 家庭科教師の代わりに派遣された担任教師銀八は、紫色の煙を吹き上げる物体ののった皿片手に志村妙に迫られていた。他の生徒達の意識も彼らに集中していた。
「はい、あーん」
 菜箸に掴まれたブツから滴った紫色の液体が銀八の白衣に落ちる、とそれは凄まじい音と共に火柱を上げた。火災警報が鳴り響く。
「いいなァ、お妙さんがあーんしてくれるなんて」
 空気を読まずうっとり呟いた鼻先に、異臭を放つ緑色の物体が突き付けられた。しかもとても熱い。執念でもこもっているかのようだ。
「てめェにゃ俺がいるじゃねーか」
 唇だけで笑った高杉の手にしたフォークに、茹で上がった味付け無しのジャガイモの芽が突き刺さっていて、背筋が一挙に冷たくなった。
「ほら、あーんしてみなァ」


2015.1.2.永


あきゅろす。
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