GROWTH
近藤と高杉、山崎(近高、3Z)
 近藤が、人生初めてできた彼氏を紹介するなんて言うから。会場になった土方の自室はぴりぴりしたムードに包まれていた。
 ここが自分の家でなくて良かった、と山崎はしみじみ思う。
 沖田も原田も土方も、人でも殺しそうな顔をしていて、何かが壊れる騒ぎになってもおかしくない。
 そんな空気を読まない近藤だけがにこにこと恋人を接待しているものだから、彼氏たる高杉も、まんざら悪い気はしていないらしい。
 そんな、恋人達だけが心地良く、周囲はカチコミ前のように殺気立った、しかもそのメンバーの大半は学校では風紀委員なんてものをやっている面々の間に、山崎は茶を持って踏み込む。そんなに怒ることでもないんじゃないですかねー、なんて口では言いながら、行動まで穏健になる気はない。
 カップルを除くみんなには冷えた麦茶を、そして──


─ ─ ─ ─ ─


「お待たせしました、粗茶です。どうぞ、お二人さん」
 主役へ最後に茶を出すなんてマナーもへったくれもない行為を咎める者はいない。それよりも気になることがあった。
「えェと…ザキ? 高杉のだけ、なんか多くないか? しかも沸騰してるような」
 どこから出してきたのか、煤けたような鉄の筒になみなみと、濃すぎる余りどす黒い茶を満たし、さらになにやらごぽごぽ音を立てている。皿に乗せているから運ぶには支障ないのだろうが、あんなもの、飲むどころか触れることもできない。
 そんなあからさまな嫌がらせにも、高杉は笑ってみせた。恋に目の眩んでいないものの瞳には、ふてぶてしく性格の悪い、近藤には頼もしく心が広いと映る笑みに唇を歪ませ高杉は肩を震わせる。
「ほォ──いい度胸じゃァねェかい」
 そんな様子も可愛いなァと思うが、理解できない事実は変わらない。
「高杉?」
「憎茶だぜェ、近藤」
「…へ?」
 高杉は近藤よりずっとたくさんのことを知っている。彼の、その粋な知識にはついていけないことも多々ある。だが、高杉は、知らないならばそれでいいのだと近藤には何ひとつ教えてくれはしない。それは、常日頃少々不満であった。それに加えて。
「あれ、バレちまった? さすが、と言っておくよ」
 山崎が悪びれず、高杉と頷き合ったりするものだからいっそう面白くない。
 今日はせっかく、親友達に大切な恋人を紹介するはずだったのに。近藤を差し置いているとはいえ、彼らの間に心のやりとりがあったのなら目的は果たしているといえるかもしれないけれど、面白くない。
「ザキ」
 そう思ったらつい、不機嫌な声が出た。
「俺にも、それちょうだい」
「えっ?」
 いつも飄々としている山崎が表情を強ばらせ、高杉、沖田、土方、原田が驚いて近藤を振り返る。
「高杉と同じの」
「はァ!?」


 半泣きで近藤のために山崎が憎茶を用意して改めて開始された、近藤の親友対恋人の顔合わせは、近藤の独壇場となったそうだ。


2015.9.8.永


あきゅろす。
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