GROWTH
近藤と土方
 土方はいつもかっこいい。──顔だけは。いや、性格もかっこいいのかもしれない、その気遣いは。
 だが、彼の場合はその舌がいけない。
 近藤が今日も今日とて妙に殴られしょんぼり帰還すると、土方がかっこよく寄って来た。
「どうした、近藤さん。やけに元気がねェじゃねーか」
 そういう彼はいやに上機嫌だった。しかもよく見ればその胸にお徳用マヨネーズを抱いていた。
 しかし妙に作られたコブのせいで視界がいつもより利かなかった近藤は、それに気付けない。
「トシ! またお妙さんがな…」
 さらにまた、土方も手に入れたマヨネーズに心を奪われ幸せの絶頂にあった。
 近藤の愚痴が始まる前にこれ以上なく誇らしげにマヨネーズの封をきった。そして、宣う。
「そうか。そんなときはコレだ。元気が出るぜ、特別にわけてやる」
 きっと土方は、近藤がなんと言おうと似たような反応だったのだろう。
 だって、あの瞳。完全にマヨネーズのことしか考えていない。近藤の話なんて全く聞いていない。
「ってかコレ、マヨ──」
 それはツッコミのため開いた口へ星形の穴を押し付けられたことからも明白だ。
「さァ口開けろ。思う様啜りゃァ楽になる」
「っ、ちょっ、待っ…!」
 ねろねろとしたマヨネーズが呼吸すら妨げるほどに口内に満ちる。
 土方の目は完全にイっていた。
 しかしそれを視認できたのも束の間、本能的に口内のものを嚥下してもしても止まらず、唇の端からマヨを吹きこぼし、呼吸困難も相俟ってその場に倒れる。そこへ土方は躊躇いなくのしかかってきた。
「どうだ、近藤さん。美味いだろう」
 その右手には、まだまだ残ったマヨネーズの大ボトル。殺される、と思ったちょうどそのとき。救いの神が現れた。
「ちょ、副長!? 何してるんですか?」
 談笑しつつ通りかかった山崎と原田だ。
 声も出せない近藤に代わり土方は胸を張り笑みを浮かべる。
「近藤さんを幸せにしてやろうと思ってよ」
 土方の異常さをその一言で理解してくれたらしい。
 原田がさっと土方を羽交い締めにし、その隙に山崎に引き摺られ助け出された。
「こ、殺されるかと思った…」
 思わず自分よりずっと小柄な山崎に泣きつく背後で、俺はただ近藤さんのために、だのなんだの叫び暴れる土方を押さえ込むのに原田が苦労している。
 ややあってなんとか気を取り直せた近藤はそっと土方に向き直った。
 視線が合った瞬間、土方の瞳に正気が過ぎる。
「あの…トシ。ありがとうな。お前が俺を心配してくれたのだけは、よくわかったから」
 土方の表情が見る間に凪いだ。
「近藤さん…!」
 その感動に安堵して、しかし腰が引けるのは仕方ない。
「もう俺は大丈夫だから、そのマヨはトシだけで楽しむように!」
 そして脱兎のごとく逃げ出した。マヨネーズは嫌いではないが、あそこまで愛せない。
 ──しかし。妙に殴られた傷の痛みも、悲しさも吹っ飛ぶ程の効能はあったとは、素直に思う。
 土方はただ純粋にマヨが好きで、万人もまたそうなのだと思い込んでいる。だから、マヨを啜ればみんな元気がわいてくると信じているのだ。


2015.3.19.永


あきゅろす。
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