GROWTH
原田(原近)
 原田の言葉はいつも飾り無く真っ直ぐだ。だがそれ故に近藤は、ときにいたたまれないこともある。
 ある日、灯りを落とした局長室の縁側で、月を肴に酒を酌み交わしていたときもそうだった。
 不意に近藤の瞳を見据えた原田は、真摯な声音で言ったのだ。
「アンタ…綺麗ですね」
「はァ!?」
 産まれてこの方終ぞ言われたことのなかった表現に、ひっくり返った声が出る。近藤の驚愕を意に介さず、というよりはむしろ意識に入れず彼は大真面目に続ける。ハゲ…じゃない、オシャレスキンヘッドに月光を受けた彼をまじまじ見返し、近藤はごくりと唾を飲む。
「アンタの瞳に映る月は、これ以上なく綺麗ですぜ」
「へ? …あァ、月…?」
「こりゃァアンタが、太陽だからなんでしょうね。太陽が輝いているから、月がこんなに綺麗になるんだ」
 しばし硬直して近藤は、ぼっと火のついたように赤くなった。しかし原田はそれにさえも気づかぬように夜空に視線を戻し、盃を傾ける。別段普段と異なる様子はなく、至極当然といった顔をしているのだから始末に悪い。こちらだけが振り回されている気さえしてくる。
 近藤は原田の首に腕を回し、そのハゲ頭を思い切り抱き寄せた。
「っわ…?」
 さすがに目を見張った原田のチクチクする頭を撫で回す。
「俺がもし太陽なら、原田は月だな」
「は?」
「よく光りそうだもんなァ!」
 そこまで言ってしまうとますます恥ずかしくなった。近藤には、キザな台詞は似合わない。
 胸元へ原田の、どこか温かい溜息が落とされた。
「局長、酔ってますね?」
 そうかもしれない。さっきからやたらとドキドキする。さほど飲んでいないはずなのに。いや──もしかしたら、原田に酔ってしまったのだろうか。
 原田は軽く肩をすくめ、ひょいと近藤を抱き上げた。俗にいう、お姫様抱っこだ。隊士も随分増えたが、近藤にこんなことをできるのは原田くらいだ。なによりもまず、筋力的な意味で。
「もう寝ますか」
 重くないはずがないのに平然とした原田は、優しい声音で囁く。
 こんな、ゴリラだとからかわれ、加齢臭がすると笑われ、ケツ毛だってボーボーなただの男なのに、そんな近藤をお姫様のように大切に扱ってくれるのだ。優しく下ろされた先が、いつ干したかもわからない男所帯の煎餅布団であっても、乙女でもないおとめ座の近藤はちゃんとドキドキしてしまう。
 胸の高鳴りに後押しされ、近藤は布団の脇に正座し掛け布団を被せてくれる原田の手を掴む。
「一緒に、寝ないか…?」
 喉を通過した自分の野太い声にげんなりした。これがお妙さんみたいな可愛い女のそれだったら、こんな我が儘も似合うのに、と。
 原田はどこからどう見ても強面の、これが王子様だと言われたら三度見してもまだ足りないような顔に柔らかな笑みを掃き、スキンヘッドを障子から差し込む月光に光らせた。
「アンタが望むなら」
 少しどころじゃなく歪だが、まるで女の憧れるおとぎ話みたいだ。


2015.2.20.永


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