GROWTH
沖田と近藤、山崎(沖高、R15)
 街中に貼り巡らされた写真が気になって仕方ない。なにせアレは沖田の恋人なのだ。
 自分の恋人が有名でも、沖田は別段嬉しくはない。まして貼られている写真はみんな悪人面全開な指名手配で、沖田は警察の幹部であるのだからむしろ居たたまれないくらいであってもいい、残念ながらそこまで繊細ではないが。
 この顔を見かけたら奉行所へ、なんて謳い文句のついたパチンコ屋の前のポスターをしげしげ眺め、沖田は徐に周囲を見渡す。
 幸いにしてというべきか珍しく通行人もいない。
 沖田は何でもない風の無表情で高杉晋助のビラを一枚剥ぎ取り懐に入れた。
 そうして、欲しくはあったが以前より手に入れることの叶わなかった戦利品を胸に屯所へ帰る、と食堂で局長と監察方筆頭が大騒ぎしていた。
「じゃーん! 可愛いだろ、このお妙さん!」
「なるほど、局長にしてはよく撮れてますね。でもこのたまさんにはかないません」
「さすが山崎! どうしたらこんなに綺麗に撮れるんだ?」
 隊士連中の若干…いや、かなり引いた視線にも気付かず盛り上がりを見せる二人の背後に思わず知らずじりじりと近付き机の上に広げられた写真を覗き込む。それらは、被写体に対する好みはさておき、確かによく撮れていた。本物と比べても遜色ない再現度である。そう思うと、懐にしまったポスターの粗さが引っ掛かる。
 関心を悟られるわけにはいかないので、屯所から離れたところでせっかく手に入れた貴重な品…であったはずなのだけれど。ここに散らばる写真、殊に山崎が撮ったらしいからくり女のそれと比べると、どう考えても劣る。だって、自分のは本物の方がずっと美人だ。
「ふふん、監察をナめないでくださいよっ! ポイントはね…どうしました、隊長」
「総悟」
 と、本気のオーラが出てしまったか、訝しむ視線を向けられてしまう。
「いや…続けなせェ、ストーカー共」
「ストーカーじゃありません!」
「俺達は愛に生きてるだけだからァァァアア!」


「なんだい、こりゃァ」
 結局、ポイントとやらを山崎から聞き出すことこそ叶わなかったがどうしても綺麗な彼の肖像が欲しくなった沖田が、待ち合わせた出逢い茶屋の一室を彼が来るまでに写真スタジオが如く模様替えしたのにはさすがの高杉も驚いたらしい。いつもいつも飄々とした彼は右目を見開き、ぱちぱちと数度瞬く。
「いや…ちィと、写真を」
「あァ?」
 彼を説得し普通のものを堂々と撮るか、はたまた自動撮影でハメ撮りと洒落込むかが悩み所であった。後者を実行したならば、沖田と高杉がよりによって深い関係になってしまった何よりの証となる。それは互いの、殊に沖田の立場上如何にもまずい。しかしそれが背徳的な興奮材料にならないともいえない。
 考えあぐねる沖田から答えを引き出す前に高杉は、勝手に彼なりの解釈をしたらしい。沖田の項に両腕を回すと、さながら女郎蜘蛛のようにカメラレンズの先に沖田を引き込んだ。
「まァ…嫌いじゃねェ趣向だが」
 人間として大事な部分がぶっ壊れた男は沖田を押し倒し、いそいそと跨がってきた。


2014.10.12.永


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