GROWTH
土方と山崎(山土)
 以前から行われていた昼食への同伴でも、関係性を表す言葉がひとつ増えれば、また違った意味を持つ。新たなそれを考慮して表現するなら、さしずめデートとでもいうくらいには。
 しかし名称が変わったところで中身は変わらない。まして食の好みなど変わるはずもない。
 山崎は、真っ正面で食欲減退させるブツを旨そうにかき込む土方に珍獣を眺める視線を向け、ごくごく一般的な定食を咀嚼する。だが、つい先日付加された関係は、土方の食事には口出ししないと一人誓っていた山崎に妙な気を起こさせた。
「副長、美味しいんですか、それ」
 常々、自分の舌の異常さを棚に上げ理解者のいないことを嘆く彼は、他ならぬ恋人の関心を惹いたと瞳を輝かせた。
「あ? お前も食うか?」
 言うが早いか店員を呼びかける土方の手を掴み慌てて引き留める。覿面に冷や汗が滲んできた。
「いや…ちょっと勇気がいるというか、人間性を疑うというか」
 焦りに煽られた断り文句に土方の額へ青筋が浮かぶ。
「あァ?」
 今にも抜刀せんばかりの彼に、冷や汗に混じり脂汗まで滲んできた。しかし、マヨの油にてらてら光る唇が美味しそうだなんてどうかしている。
 山崎はいつしか渇いた喉を湿らせるように数度に分けて唾を飲み込み、土方の瞳を真っ直ぐに見据える。
「…──一口だけ。いただけますか? 口移しで」
 そう言った瞬間、土方が面白いように真っ赤になった。たっぷり数秒硬直して、ようやっと周囲に視線を泳がせる。
 食事時からずれた定食屋は、混雑こそしていないものの、ぽつぽつと席が埋まっている。その合間を縫うように看板娘が忙しそうに立ち働いていた。土方は無意識にだろうかその唇をゆっくりと舐める。
 ──この人は誘っているんだろうか、とすら思う。変なところでウブな彼のことだからそんなはずはないとわかりきっているのに煽られてしまう。
「こんな、とこで──」
「アンタそれ、逆効果ですよ。わざとですか」
 漸う言葉を発した土方は頬を真っ赤に染めて、心なしか潤んだ瞳を山崎の唇辺りへ這わせる。
 そんな土方の頬に片手で触れ、山崎はそっと腰を浮かせた。
 ちょうど帰ろうと傍らをすり抜けようとした商人風の男がギクリと足を止めこちらを凝視したが意に介さず、僅か傾けた顔を土方へ近付ける。
 ぱくぱく、と数度口を開閉させた土方は身を強ばらせぎゅうと目を閉じた。
「可ァ愛い…」
 鬼の副長のくせに、狡い。
 山崎は肩をすくめ、土方の鼻先に刹那唇を触れさせると椅子に座り直した。食器に残った中身を、何事もなかったように口へ押し込む。
 山崎が離れても暫く固まっていた土方は、唐突に立ち上がると声にならない叫びと共に食卓をひっくり返し、その下敷きになった山崎を振り返りもせず駆け去ってしまった。


2014.8.28.永


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