GROWTH
土方と山崎(R15、沖土&近×誰か)
 部下の苦情を受け付けるのも土方の役目のひとつだ。尤も、鬼の副長へ持ち込まれる案件よりも近藤への直訴か、はたまた各隊長連中へのものの方が多いのは確かだが。
 それでも敢えて自分に告げられた相談を無碍にする気は土方にはない。
 ないが、しかし。
「局長がセクハラするんです」
 あまりにも想定外のことを言われたら呆然としてしまうのは致し方ない。
「は? 近藤さんが?」
「えェ、隊長みたいに」
「総悟みたいに?」
 訳がわからない。
 山崎は優しげな垂れ目に真剣な色を滲ませて追い討ちをかけた。
「どうしたらいいですかね」
 と、言われても、土方には隊士にセクハラをする近藤など想像がつかない。彼の感情表現は常に真っ直ぐだけれど、まさか山崎に欲望を向けはしないだろう。しかもその行動が沖田のようであるなど…ますます訳がわからない。そんな状態では、如何に真選組の頭脳と雖も効果的な解決策など提示できるはずもない。
「──ちなみに何されるんだ?」
 恐る恐る口にした瞬間、それを待っていたように山崎は滔々とまくし立てる。
「男同士のやり方教えろって。どうして俺に訊くんですかね。隊長は副長で実践するらしいけど、どうでした? 俺もやったことはないんで不安だったんですが。良ければ感想を──」
「俺の方がセクハラされてる気がするんだが、山崎ィ!?」
 照れとでも表現すべき圧力でもって話半ばの山崎を部屋から追い出し、土方は肩で息をする。
「ったく…どいつもこいつも──」
 殊更に強く吐き捨てようとした音は宙に途切れた。
 ‘二人だけの秘密’であると思っていたことが、実はそうではなかった。
 鼓動がバクバク喚き、冷や汗なんだか脂汗なんだか両方だか自分でもわからぬものが滴るほどに滲む。
 そう言われてみれば確かに、沖田は年齢の割に巧いなとは思ったのだ。だが手慣れているというほどではなく、その危ういバランスがいっそう、二人の初体験のスパイスになったのは否めない。ただその情報源が雑誌やインターネットでなく山崎であったことだけが問題なのだ。
 その衝撃というに相応しい事実も、深呼吸を重ねるほどに何とか容れることはできた。
 今更仕方のない話だ。
 沖田のことに諦観の念を抱くと、今度は近藤のことが脳裏を支配する。
 先日彼を迎えにすまいるへ赴いた折会った妙は、普段と何も変わらず営業用の笑顔で真選組の大将をシバいていた。それに、そもそも志村妙はあんな人物ではあるけれど、女だ。
 土方は煙草をくわえ、俯き加減に火を点けた。
 深く肺の最奥まで煙を浸透させ、ゆっくりと吐く。
 大将が男に走るなど、決して喜ばしくはないが。逆に相手が男であるならば、近藤の無様な振られ記録も更新が止まるのだろう。
 ──何やら物寂しいなど、誰にも言えない。


2014.6.3.永


あきゅろす。
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