GROWTH
沖田と土方(沖土、R18)
 夕食の後自室に戻り、総悟は一風呂浴びようと押し入れを開いた──と、唐突に膝が抜けた。
「大丈夫か?」
 襖が開き、白々しい声がした。浅くなる呼吸を抑え、そっと息を整える。漏れそうになる呻きは奥歯で噛み潰した。
「土方さん…あんた、何しやした?」
 彼はゆっくり瞬き、唇の端を持ち上げた。
「いや──何も」
「嘘つくなィ…俺に、なんか、盛ったんだろィ」
 するりと総悟の部屋に入った土方は、後ろ手に襖を閉め、刀の届かないぎりぎりの距離で片膝をつき、開いた瞳孔で総悟の顔を覗き込む。
「──辛ぇか?」
 そう言われて、肯定などできるはずもない。たとえ、上体を起こしていることさえ難しい現状でも。
 畳に両手をつき、吐息を押し殺して土方を見据える。
「はっ、誰が──平気の、へいざでさぁ…」
 土方はふぅんと小さく鼻を鳴らして、その胸ポケットに右手を突っ込む。
「──なら…解毒剤はいらねぇな」
 ちらりと見えた白い薬紙に、呼気が揺れた。
「全く──効いて、ねぇからねィ」
「そうだな、8時間は続くらしいが──効いてねぇもんなぁ」
 淡々と吐かれた言葉に、視界がぶれる。霞む頭を必死で回転させた。
 これは何の薬か──なんて、考えるまでもない。
 真っ先に足にきて、息があがり、頭がぼやけて──そして、こんな状況で不自然に雄が勃ちあがっている。
「──後で…覚えてなせぇ」
「お前が先にやったんだろう」
「──知ら、ねぇ…や」
 総悟は、畳についた手を握り締める。
 しかし、なんだ、これは。そうごだけが勝手に高まって、そのくせ体がまるでいうことをきかない。例えでなく、手を伸ばせば届くところまで土方が近づいてきても、動けない。自分が彼に盛ったものよりも確実にタチが悪い。
「──土方、さん…」
「なんだ?」
 小気味好く煌めく双眸と、不敵に歪められた唇が、これ以上なく腹立たしい。
「──何が、目的ですかィ…?」
「いや──これといってねぇんだが」
 飄々とした言葉に、殺してやろうかと思った。が、如何せん体が全く動かない。ただ、乱れる息を噛み締める。
 と、顎に土方の手がかかり、ひょいと上向かされた。
 片膝をついた彼の前、犬のように這って──屈辱と怒りで神経が焼き切れそうだ。
「──こういうのも、たまにはいいな」
 にやり、と土方が笑う。
 どくり、ときめきが背筋を撫でた。だが、それを知られるのは腹立たしく、奥歯をぎりぎり噛み締める。
「──してェ、のかィ」
「俺はしたかねぇぞ」
 かくり、と腕が頽れた。
 眼前に、土方のズボンの前立てが迫る。気力で畳を押し、そこへ顔を寄せた。布ごしにまだ反応していないひじかたへ食い付き、少し強く歯をたてた。
 後頭部に温かい掌が触れる。
 ぎり、と生地を噛み締め、土方を睨みつけた。
「──俺ァ、してェぜィ…」
 土方が笑う。
 あぁ──あいつの、思惑にのっちまった…
 熱で頭がどんどん盪けていく。
「なら──おねだりしてみろよ」
 妖艶に笑う彼に、反論する気力はなかった。


2012.1.24.永


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