GROWTH
近藤と高杉、土方(近高、3Z、R15)
 放課後。部活動も終わった夜の高校は薄暗く、お化けなど信じてはいないがどことなく薄気味悪い。
 土方は背筋に絡む怖気を振り切るように走り、部室へ駆け込む。窓から差し込む仄かな電灯の光のみに照らされたそこにある気配に気付く余裕もないまま、忘れ物を探すため何よりも先に明かりをつけ──そのまま硬直した。
「よォ、土方」
 部員でないはずの高杉が、下肢を晒しカッターシャツの前を全開にしたしどけない姿で机に腰掛けていた。
「よォ…」
 特に親しくはない同級生の、真白い内腿に視線を釘付けにされたまま、土方は呆然と木霊のような音を返す。
 高杉の両足の狭間に立った近藤は、その筋肉質な背を高杉に緩く叩かれてようやくぎくしゃくと土方を振り向いた。
「って高杉、お前何してんだ、こんなトコで」
 予想外というならば全てがそうで、零れた声は無様に掠れる。
 高杉の毒々しいほどに紅い唇が、にまァ…と弧を描いた。
「てめェこそ何をしてやがる、見せモンじゃね──」
 そのとき。
 ヒューズの飛んだようだった近藤が身を翻し土方に駆け寄って来た。肩をガシッと掴み、その体躯で高杉の姿を隠し土方を揺さぶる。
「トシーッ! マジでごめん、ごめんだからちょっと出ててくれないかッ!?」
 そうして、土方が幼馴染みの勢いに圧倒され何をも言えずにいるのをいいことに、彼は一方的にまくしたてる。
「高杉も前閉めなさい、前っ!」
「近藤さ──」
「ごめん、話はあとで聞くから、なっ!?」
 いつも感情表現の大きな彼の、これまでにない慌てっぷりに頷く前に、近藤の背後から笑みを含んだ声がいやに近く響いた。
「着たってまたすぐ脱ぐんだろォ」
 ひょい、と近藤の脇から顔を覗かせた高杉を二人して刹那呆然と見やり、一拍おいて近藤の色黒な頬を血の色が染める。
 白色の素っ気ない電灯のせいばかりでない、高杉の素肌の白さと相反するしなやかな筋肉のラインに目を奪われる。
「ちょっ…トシが出てくまでちゃんと隠してって言ってんのっ! 俺以外に見せちゃいけませんっ!」
 思わず飲み下した生唾は、幸いにして近藤の大声に紛れた。と思ったのに弾かれたように土方に戻された瞳に、反射的に腰が退ける。しかし肩を掴まれていて逃れられない。
「…トシ、これは風紀委員としての指導の一環だから! あ、なんか口に出したらますますそんな気がしてきたよ、うん! 高杉、素行悪いしね!」
「近藤、嘘がバレバレだぜェ?」
「高杉は指導されてるんだから、今は黙ってなさい! ボタンも留めて、ほら!」
 近藤が焦れば焦るほど高杉は楽しげに笑い、それにつれ土方も徐々に平静を取り戻す。
「で、だな、トシ。ちょっとその、他人に聞かせたくない話をしてたから、外してくれないか?」
「そォそォ、他人に聞かせたくない性的な話をなァ」
「高杉は黙ってなさいってば!」
 いつまで経ってもニヤニヤ笑うばかりの高杉のシャツのボタンを甲斐甲斐しく留めてやりながら、近藤ばかりが目に見えて焦っていく。
「あァもう…ズボンも穿いてよ、生足が丸見えじゃないか」
「脱がせたなァ誰だい」
「俺だよ、俺だけど!」
 近藤と高杉が一体いつからこんな関係になっていたのか、まるで知らなかった土方からすれば、この状況は少しく面白くない。だが、それ以上にアホらしい。アホらしさのあまり背を向けかけて、土方は漸く、彼らの…殊に近藤の姿態を改めて眺める余裕を得た。
 無視していこうかとも思ったが、土方はややあって口を開く。
「──近藤さん。とりあえず、俺が悪かった。けど…できりゃァ次から鍵をかけてくれねェか。あと、最後に、ひとつだけ…」
 平静を取り戻してしまうと近藤も高杉も直視しがたく、土方は天井付近へ視線をさまよわせ、数度に分けて唾を飲み下した。
 高杉は、肩を震わせ喉奥からくつくつと楽しげな音を零す。
「俺ァわァってるから、もういいぜ」
 そう言ってこれ見よがしにシャツの裾を翻し背を向ける高杉よりも、他人に見せるべきでないモノがここにある。
「あァ、でも近藤さんが気付いてないしよ…」
 土方は口の中でもごもごと言い訳がましく呟き、正面に立つ近藤から精一杯顔を背けた。そうすると、ちらちらと悩ましげな素肌を晒す高杉に瞳が奪われるわけだが、この二人は揃って露出慣れし過ぎていると思う。
「…その、近藤さんのズボンのチャックをまず閉めねェと、さっきの言い訳じゃ誰も納得しねェと思うんだ。邪魔したな」
 散々見慣れたはずの近藤の逸物ではあっても、それがギンギンに勃起している姿など目の当たりにしたのは初めてで、なにやら気恥ずかしく早口にまくし立てて部屋を飛び出す。
 乱暴に扉を閉めると、校門まで駆けた。
 そうして、本来の目的である忘れ物を取って来なかったことに気付いたが、もう今更戻れない。
 街灯に照らされた空には、ぽつぽつと星が浮かんでいる。それこそ、物心のつく前から知っている近藤が、遠くに行ってしまったようで。小さく零した息は白く空気に溶けた。


─ ─ ─ ─ ─


 がちゃん、と土方の出て行った扉が閉まる。
 近藤は反射的に鍵をかけ、その場にへなへなと座り込んだ。
 屹立したこんどうが幅を利かせている。何故気付かなかったかわからぬほどに堂々と、こんな状況で萎えることも知らずにだ。訳もなく叫びたくなって、視界に涙が滲む。
 そんな近藤の背後からするりと腕を絡ませてきた高杉が、こんどうを握り込んだ。
「ちょ…っ…」
「俺ァまだ足りねェ。てめェも、だろォ…?」
 こんなところでするのは嫌だとはじめばかりは抗った自分を誘惑した恋人が、この程度で懲りたりしてくれるはずもなかったらしい。


2014.4.28.永


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!