GROWTH
土方と山崎(沖土←山)
 山崎には、日々殴る蹴る抜刀するの横暴極まりない上司がいる。そんな彼の人を人とも思わぬ扱いにも怯まずついてきたが、ある日ひょんなことで知ってしまった上司の同性の恋人の存在は彼の今までのどんな八つ当たりよりも大きな衝撃でもって山崎を打ちのめした。
 あの、鬼の副長と恐れられる土方が。弱冠18歳の天才剣士に夜毎抱かれている。
 面白くない、なんて。真実であるからこそ決して口には出せない。
「副長…」
 その表現し難い蟠りは、常と変わらぬ報告の後に続き、いやに意地の悪い音に変わって飛び出した。
「なんだ」
「セックスって気持ちいいんですか?」
「っ…!」
 土方の肩が大きく震え、話半分で聞き流していた彼の瞳が山崎を捉えた。怯まずその視線を受け止める、とふっと彼は息を吐いた。
「なんだ、いきなり」
「いや、隊長とあんまりしょっちゅうやってるから」
 後には退けず極力淡々と告げる、と土方は大きく溜息をついて視線を逸らした。その頬が、ぽおっと仄かに血の色を纏う。
「そりゃアイツはやりたい盛りだし──」
 ──見たく、なかった。
「つうか、んな頻度まで確認してんのか」
 山崎はそっと奥歯を噛み締め、意識的に表情の変化を抑え込む。腹筋に力を込めて苦い音を歯列の狭間から押し出した。
「俺は副長の犬ですから」
 それ以上でも以下でもないのだと山崎は自分に強く言い聞かせる。根は気のいい土方はそっと眉を顰めた。
「どうした、何かあったのか?」
 土方には、わからない。きっと生涯わかるはずがない。そしてまた、それが彼にとっての最善であるのだろうと思う。
「アンタは、あのお人だけ、見とればいいんですよ」
山崎の入る隙など始めからなかった。
「山崎?」
 ──そうして、たまに。ほんのたまに、彼の命令に忠実な自分の頭を撫でてくれれば他には望むべくもない。
 山崎は静かに腰を上げ、足早に入口へ向かう。
 畳が変に軋んだ。
 訝しむ気配を察し、後ろ髪引かれる想いを気力で打ち消して最後はドタバタと走り逃げ出した。そのまま廊下を駆け抜け、角を曲がった瞬間誰かと思い切り衝突し瞬間視界がぶれる。
「っ…」
「…山崎? どうした、お前」
 降ってきた親友の声に、涙腺が決壊した。血の気を失うほどに唇を噛み締める。
 刹那ののち、原田の大きな手が後頭部に触れ、筋肉質な肩へ顔面を押し付けられた。
 表情が見えないのが、何よりありがたくて頬を熱い雫が伝うのを止められない。


2014.3.25.永


あきゅろす。
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