GROWTH
沖田と山崎(沖土、R15)
 土方の仕事が今終わるかもう終わるかと待っていても、彼は一向に机から離れる気配がない。退屈の余り副長室を漁りだすと眉を顰めこそしたが、彼は何も言わなかった。
 押し入れの隅に掌に乗るくらいの緑色の小箱を見つけ、開けてみると茶色い小瓶の中に黄色い錠剤が幾つか入っている。ふと視線を感じ顔を上げる、と土方が面白そうににやにや笑っていた。
「ほしいならやるぜ?」
 だから、もうしばらく待っていろとあっさり言われ、反射的に立ち上がった。
「なら──ちっと遊んできまさァ」
 言ってしまってからこれでは子供のようだと思ったが今更遅い。意趣返しのように乱暴に襖を叩きつけた。


 とはいえ、夜も更けてからの遊び相手などそうはいない。致し方なく廊下で行き合った風呂上がりの山崎の襟首を引きっ掴んだ。
「ザキィ、これやらァ」
 反射的に逃げようとした彼は、垂れ眼を一度ゆっくり瞬かせてから沖田の手の中の小瓶をまじまじ見つめた。
「なんですか、これ」
「知らねェ。副長室にあった」
「勝手に持って来ちゃダメじゃないですか」
 言葉こそ咎める形をとってはいるものの、その声音は土方の私物に対する好奇心できらきら高揚している。
「こりゃァ何かねィと思ってたら土方が、やるっつったんでィ。ムカつくから俺ァお前にやらァ」
 そう言われ、ほんの僅かに山崎の期待が萎れたのが見てとれた。
 それでもそっと瓶を受け取りその口を開く。中を覗いて、大きく瞳を見開いた。
「…っていうか、これ──」
 言い淀む彼に沖田もまた訝しく首を傾けた。
「なんなんでィ、そりゃ」
「いえっ! なんでもないです!」
 そう言うなり踵を返し脱兎の如く逃げ去ろうとした山崎の二の腕を捕らえ、笑みを貼り付けた顔を寄せた。
「いいから、言ってみなァ…?」


「土方さん」
 言葉と共に思い切り障子を開放する。彼は、沖田が出て行ったときとまるで変わらぬ姿勢で仕事を続けていた。机に積まれた書類量から察するに、おそらく今宵はそこから離れる気はないのだろう。
 だがしかし、沖田だって今夜をこのまま終わらせる気はなかった、せっかく面白いブツを山崎の手から取り返したことでもあるし。山崎に言わせればそれは、強精剤であるらしい。副長は隊長との夜に満足できとらんのでしょうかね、なんて笑った地味な監察に煽られた男心は、このままではおさまりそうにない。
 ところが彼は一切反応しない。沖田は片眉を持ち上げ足音を忍ばせて彼の正面に回った、と土方は仕事をしているとまるで変わらぬ姿勢のままぴくりともせず微睡んでいた。
 沖田は自分の顎に手を当て、小さく鼻を鳴らした。土方が目覚める気配はない。
 沖田は小瓶から一粒つまみ出した錠剤を口に含んだ。土方の唇に唇を重ねる。
 彼の睫が小さく震え、ややあって瞳が大きく見開かれた。
「ん…っ!?」
 彼がはっきりと目覚める前に、その口内へ錠剤を押し込んだ。
 途端吐き出そうと抗う彼の両頬を押さえ舌を差し入れる。彼の喉仏が小さく上下したのを指先で確かめ、そっと唇を離す。
 彼の手の甲がごしごしとその唇を拭った。
「──なに、飲ませた…?」
「アンタが寄越したブツでさァ」
 そう告げると彼は、あぁ…と曖昧ににがわらった。


2014.1.19.永


あきゅろす。
無料HPエムペ!