GROWTH
沖田と土方(沖土、R15)
 夜中にふと目覚めたときには、近藤が総悟の床の傍らに胡座をかいて船をこいでいた。しかし、朝日が差し込みはっきり目の覚めた今、彼の姿は影も形もないとなるとあれは夢だったのではないかとすら思う。幼い子供でもない総悟が少々風邪をひいたくらいで、徹夜して看病してくれるなどいくら近藤とはいえ自分の願望が見せた幻ではなかったか、と。
 その思いは土方がぶっきらぼうに旬の苺を持って現れ、一応洗いはしたらしい赤く濡れた粒の入った1パックを枕元に置いたことでますます強まる。
「総悟。ここに置いておくぞ。近藤さんから見舞いだ」
「──近藤さんは…?」
 喉を通過した音は無様に掠れていた。咳払いして誤魔化すと、痰が喉奥に絡む。頭を枕に付けているのに、くらくらと眩暈までした。
「ストーカー中だ。残念だったな、あの暴力ホステスも風邪らしいぜ」
 だが、その言葉に気分は少しだけ上向いた。
「──看病しに行ってんのかィ」
 あの自分と同じ年の女と天秤にかけた近藤が、彼女をとったとあからさまに見せつけられ嫌悪もないなど我ながらどうかしている。しかし土方の無愛想な態度は沖田の気を損ねないものだった。「させてもらえねェだろうがな。じゃァ俺ァ仕事に戻る。大人しくしてろよ」
 言うが早いか踵を返す、彼に向かい伸ばした手はその隊服の裾を掠めただけに終わった。
「待ちなせェ──」
 部屋の出入り口と、沖田の布団の中間で土方は足を止め、何も読みとらせぬ感情の薄い瞳をこちらへ向けた。
「ちっとこっち来なァ」
「あ?」
 彼の片眉が静かに持ち上がった。怪しみながらもゆっくりと近付いて来る土方も、近藤と同様お人好しだ。彼の場合は条件付きではあるけれども。
 ズボンの裾を今度こそしっかと掴み、半ば体重をかけ上体を持ち上げる。ズボンが下がると面白いと思ったけれど、残念ながらそれはベルトに阻まれ叶わなかった。
 頭をもたせかける枕がなくなると、さっき以上に眩暈がする。
「──なんのつもりだ」
 訝しむ彼は、総悟がちょいちょいと指先で招くとそれでも屈んで視線の高さを合わせてくれた。
 その唇に躊躇わず唇を重ね舌を差し入れる。戸惑いがちに受け止めた熱い舌が総悟のそれと絡み、ややあって離れる。
 息を乱してもいない余裕ぶった瞳を睨み、沖田は口角を持ち上げた。
「うつすと治るそうじゃねェですかィ」
 土方の手の甲がそっと彼の唇を塞ぎ、瞳孔の開いた瞳が面白そうに細められた。
「俺は風邪なんざひいてる場合じゃねェんだが」
「は、ほざいてな──」
 憎まれ口もその締め括りを咳に奪われるとサマにならない。
 土方は沖田の肩を押し布団に戻すと今度こそ背を向けた。そうしてすたすたと行きかけ、出入り口で足を止める。肩越しに振り向いて、にやりと笑った。
「まァ──てめェのくれるモンならなんでも貰ってやらァ」
 言葉の出ない沖田を置き去りに、彼は行ってしまった。土方がその後風邪をきちんと受け取ったか否かは、また別の話。


2014.1.4.永


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