GROWTH
沖田と山崎(沖土、R15)
 世間の嫌煙志向に抗いしつこく喫煙を続ける土方のパシり、山崎が煙草を買って帰ってきたところに行き合い沖田はにんまりと表情を緩ませた。それが一体どう映ったかくるりと踵を返す山崎の首根っこを引っ掴み自室へ引き入れる。
 そうして。
 山崎を‘説得’して使いの品を出させ、注意深く底面からフィルムを剥がす。抜き取った煙草を曲げぬよう、耳掻きで葉をかきだし、真ん中辺りに正露丸を一粒押し込んだ。
 マヨボロなんていかれた名の煙草は、葉を戻してしまえば外見上の変化はほぼない。
 そこまでなら沖田の意図を察した山崎もにやにやしていた。だが、次のターゲットに沖田が一味の粉末を流し込んだのには頬を引きつらせる。そしてその次のものに爆竹を詰め込んだ辺りで大きく溜息をついた。
 そんな彼を黙殺し一箱分の煙草に何かしら詰め込みフィルムをなんとか元通りにしようと悪戦苦闘しながら山崎を振り返る。
「ザキィ、てめェどれに賭ける?」
「やっぱりやめておきましょうよ、副長怒りますよ」
「アイツぁしょっちゅう怒ってるじゃねェかィ」
「そりゃそうですけど」
「なんでィ、ビビってやがるのかィ。今更ガタガタ言うんじゃねェや」
「隊長が脅迫したんじゃないですか」
 そうやってさり気なく責任の所在を押し付けつつ、山崎は沖田の手から煙草の箱を取り上げた。透明な接着剤でフィルムの底面を何事もなかったように修正する手口は鮮やかの一語に尽きる。
「──誰が脅されたってんでィ」
「俺ですよ。全く、真っ先に疑われるなァ真っ平です。これはアンタが届けてくださいね」
 ぽん、と沖田の手に箱を戻しへらりと笑う表情はどうにも食えない。さっさと部屋を出て行く背に声をかけた。
「俺ァ、一味にジュース一本賭けるぜィ」
「そうですか。なら、俺は正露丸に団子一本──」
「山崎ィ!」
 屯所中に響く怒声に応え彼はすっ飛んで行ってしまう。
 遠くから情けない悲鳴が聞こえた。


 沖田がさりげなく土方へ煙草を渡す機会などそうはない。致し方なく夜、彼の部屋へ訪れた際口付けながら隙を見て文机の上へ転がしておいた。さてどうなるかと思えば性的高揚もひとしおというものだ。
 そうして、ついついいつもよりハッスルした後、彼が気怠げに上体を起こし例の煙草を手にしたのを見て息を飲む。さりげなく着衣を整えいつでも飛び出せる準備を進めながら土方をちらちらと盗み見る。
 視線に気付き彼は訝し気に沖田を睨んだが、煙草へは疑いを向けず慣れた手付きでパッケージを開き一本をつまむ。沖田へ注意がいっていたからか、心なしかよれた煙草にも拘わらず口に挟み火を点け──火がじわじわと葉を侵食し一秒、二秒…微かにジジ、と異なる音がした、と思う間もなく土方の手の中で煙草が爆発した。どうやら爆竹入りのらしいと理解するが早いか身を翻し、廊下へ飛び出す。
 彼の怒声を背中で聞き流し、深夜に足音荒く屯所内を駆け抜けながら、そっと唇の端を吊り上げた。
 残念ながら賭けは二人共負けてしまったようだ。


2013.12.17.永


あきゅろす。
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