GROWTH
沖田(沖土)
素知らぬ顔をしているくせに、いざ付き合ってみれば沖田総悟という男は予想外に独占欲の強い男だった。
さすがに業務上の付き合いには口を挟まない、だが、山崎が一言多いいつもの癖で僅かでも職務以上の部分に踏み込むと大変だ。
アンタは本当に可愛いお人ですね…なんてほざいた山崎をすかさず締め上げ、大騒ぎである。それはもう、バカなことを言ってるなと山崎を蹴りつける隙すら与えぬくらいの憤りっぷりだった、山崎は土方のものであるはずなのに。
また、そんな事態に大袈裟なくらい悲鳴を上げ謝り倒す羽目になったくせに、懲りない男である山崎は沖田のオーバーリアクションがよほど気に召したらしく、彼が聞いているときを狙ってはことあるごとにギリギリの軽口を叩くようになった。それが両手の指の数を超えるに至って沖田は、ようやく山崎に遊ばれている事実を認めたが、土方の負担は減らなかった。
自分が沖田のモノであるという自覚を持て、などと一回り近く若い彼にわざわざ言われずともそんなもの疾うに持っている。だがしかしそんなこと沖田に言いたくない。
反射のように反発して、ますます喧嘩が増える。ろくでもない負の連鎖に辟易して土方は、渋々山崎をこっそり呼び出した。
できるならばこんなこと、したくはなかった。公私混同は山崎と土方の間なら日常茶飯事でも、そしてまた山崎には諸々バレバレであろうとも。沖田との関係性を自らひけらかすなんて恥ずかしい真似したいはずもないのだから。それでも敢えて苦言を呈すなど…気が重い。
何だかんだ言って気の利く勘のいい彼は、副長室に一歩入った瞬間に用件を察したらしい。土方が口を開くより先に、悪びれず宣った。
「副長、隊長がアンタのこと影でなんて言ってるか、知ってますか?」
ニヤニヤ笑いが気に食わない。だが、気になる。土方は落ち着かなく座り直し、殊更に苦い顔を繕った。
「──言ってみろ」
土方は可愛い。
こりゃァ確かに事実ですぜィ。
けどねィ、アイツが可愛い、なんざ他人に認められると面白くねェや。
アイツを可愛いって言っていいなァ俺だけでィ。この感情を共有してェってェなら、それなりの覚悟がいるんじゃねェかィ?
アイツは俺のなんだからねィ。
聞いているうちに勝手に頬に血が集まり、心臓がどきどき喚く。こういう反応をしてしまうから山崎に揶揄われるのだとわかっていても止められない。
自分で自分をコントロール出来ぬ苛立ちのまま山崎を蹴りつけて部屋から追い出し、後ろ手に障子を閉める。結局用を告げることもできなかったと気付いても山崎を呼び戻す気にもならず乱れる呼気を噛み締め心臓の上をぎゅっと押さえた。体重を半ば預けた障子が軋む。
本当に、本当に。
嬉しくて堪らない。
山崎は口が減らず懲りない男だし、食えないところも多々あるけれど、土方に嘘はつかないと信じている。沖田は大概素直でないし、そんな風にまで感じてくれているなど…察することこそできても、告げてもらったことはない。
──嬉しい。嬉しくて、どうにかなってしまいそうだ。
土方だって眼前に沖田がいたらこんな感情は意地でも押し隠すしかないけれど、一人きりの部屋では緩む頬を制御できない。
が、その瞬間。
すぱん、と乱暴に襖が開かれた。副長室を訪れるのにこんなにも傍若無人な態度を取るのは隊士多しといえども沖田くらいだ。
慌てて表情を引き締める、が、もう遅い。沖田の目が見開かれ、そして。にやあ…と笑った。
2013.11.6.永
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