GROWTH
沖田と山崎(沖近、山坂、R15)
 土方の子飼いは可愛い顔してなかなかに食えない。そしてまた、有能な監察でもある。この二つが揃ってしまったなら、沖田が本気になった人物と上手くいったなんて事実を隠しおおせるはずもなかった。
 いつもへたれた顔をしているくせに微妙に話が合い、だからシモの話もよくしていたけれど、肝心なことにはしっかり口を閉ざしていたのに。あっさり見抜かれこのザマだ。


「温いねィ…俺ァもっとハードなのが好みでィ」
「ドSと一緒にせんでくださいよ、俺はソフトまでですー」
「ふーん…なら、こんくらいかィ?」
「手首縛り…まァ、イケますけど。モデルが好みじゃありませんねー」
「贅沢言うなィ、ならどんなヤツがいいんでィ」
「そうですね、隊長の──とか」
「ありゃァ駄目でィ、見せられねェや」


 大体、わざわざ写真や動画なんて媒体を使い焼き付けずとも、山崎さえその気になれば気配を消して性交渉を覗き見るくらい簡単だと知っている。実際、何度最中で気付き、ムードを読まずバズーカを放って近藤を唖然とさせたかわからない。
「そうかァ…なら、交換条件ならどうです?」
「あ?」
「俺のと、アンタの。見せ合いっこなんてどうです?」
 瞬間、ぐらりと心が揺らいだのは否めない。
 なにしろ、この男。他人のことを探るには長けているくせ、自分のことはほとんど悟らせない。その証拠に沖田は、たった今まで山崎の‘いい人’の存在を考えもしなかった。
「そりゃァ…いい犬に仕込んですげェブツ撮ってそうだねィ、テメェなら」
「嫌だなァ、俺は調教趣味なんてありませんよ」
 へらへら笑う人の良さそうな表情までも、山崎の手に思えてきた。


 なんだかんだ好奇心を煽るだけ煽っておいて隠されると、なにがなんでも見たくなるのが人の常というものだ、たとえそれがそう仕向けられたものだとしても。
 山崎の非番を調べ、それに合わせて仕事をサボり後をつける。
 屯所を出て数m行ったところで唐突に彼が振り返り、隠れるべきだと思う前に何故彼から隠れなければならないのだと尾行者とも思えぬプライドが膨らんで。堂々と胸を張って彼の視線を受け止める。
「──ま、顔を見るくらいは構いませんけど。その後は撒きますよ」
 沖田は軽く顎を上げ、山崎にシッシッと手を振った。
 彼はへらっと笑って背を向ける。心なしか浮き立った後ろ姿に肩を竦めた。
 ──そして。待ち合わせ場所らしいターミナルに現れた相手は、予想外にも程があった。
 洋装のくせにカラコロ下駄を鳴らし降り立った、サングラスをかけた長身の男は搭乗口脇にひっそり佇む男を目敏く見つけ、ぱあっと笑った。
「アッハハハハー! 地味君ばもう来てくれよったがかー! 待たせたのー!」
 思いきり胸にダイブした彼を、山崎は二、三歩よろめいたもののしっかりと抱き留める。黒い天然パーマを優しく撫で、にっこり笑った。
「もう…坂本、何回も言ってるだろ? 俺の名前は山崎退だ、って」
「わかっちゅうよ、地味じゃき、地味君じゃろー? 元気そうで嬉しいぜよー」
 明らかに体格差のある山崎の首元に頬を擦り寄せ、た拍子にサングラスがズレる。露になった表情は本当に幸せそうで。重要参考人と真選組監察の辺り憚らぬ幸せオーラに、沖田はなんだかどうでもよくなってきて踵を返した。


2013.10.23.永


あきゅろす。
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