GROWTH
沖田と土方(沖土)
 仕事用に配布された携帯電話は、必要最低限の機能しかついていない。電話と、メール。それも、必要以上に使用すると苦言を呈されるほどプライベートのないものだ。
 そんなブツだから、滅多にメールが来たりしない、まして屯所内にいる間は。
 にもかかわらず届いたメールを開く。
 差出人は登録されていないアドレスを使用していた、隊士ならば携帯電話を配布されている者は全員登録されているはずなのに。
 本文には「やっほー、サブちゃんだお(^O^)これからよろしくね☆ミ」などと書かれていて、心当たりの人物はいるが、彼に連絡先を教えた記憶はなく気持ち悪い。いや、同業なのだから仕事用のアドレスくらいその気になれば調べられるのかもしれないが。だとしても気持ち悪い。
「土方さん、こいつァ誰ですかィ?」
 メール画面を睨んだまま、座卓に向かう土方の背に声をかける。彼は万年筆を動かす手を止めもしない。
「あ?」
「知らねーヤツからメールが来たんですがねィ、いやに馴れ馴れしいんでさァ」
「あ──…」
 土方は何に思い当たったか、手を刹那止め肩を竦める。
「返事するなよ、面倒臭ェことになる」
「──わかりやした」
 結局、彼は沖田を振り返らぬまま仕事を再開してしまった。
「返事してみやす」
「俺の話聞いてんのか、お前」
 ようやっとこちらを見た彼の瞳を、携帯を放り出して見つめる。
「そりゃァ俺のセリフでさァ」
「あ?」
「俺の話、マトモに聞いてねェなァアンタですぜィ」
 土方はきょとんと数度瞬いて沖田をまじまじ見つめ、手元に目をやり沖田へ視線を戻す。
 そっと万年筆を机に寝かせた。
「構ってほしいなら、そう言やァいいじゃねーか」
「は、誰が」
 大きく舌打ちして、彼の膝に乗り上げる。押しやった机から転がり落ちた万年筆が畳にインクを零した。
「サブちゃんとやらと俺がメル友になりゃァ、確かに面倒なことになるかもしれやせんが」
「は? サブちゃん…ってお前、佐々木とメールしてんのか?」
 土方の首に両手を回し、万年筆に気をやる余裕もないように目を見開く彼と額を突き合わせる。
「それ以上に面倒なことなんざァ、掃いて捨てるほどありやしてねィ」
 例えば、土方の気の惹き方──とか。
 普通に話しかけてもてんでダメ、僅かばかりの興味を惹くのにバズーカ一発ならば有効だとか。
 常に俺だけを見ろ、などと言いはしないが、土方の仕事外の時間の大半は睡眠に割かれ、それだって最低限だから沖田に向き合うことなど放っておけばいつまでもないなど、いったいどういうわけだ。
 面白くもない。
 良くも悪くも他人を頼るのが不得手な彼は、山崎以外に仕事を任せることもなかなか出来ず、なんでもかんでも一人で抱え込んでしまって。だから、ますます沖田を見る余裕もなくなり、退屈の余り過激な行動に出るとますます土方の仕事が増える。この負のループから抜け出す方法が未だ掴めない。
 そして、何よりの問題は。
「面倒な事を作り出してるなァ、大概てめェじゃねーか」
 クク、と喉奥で笑って、仕方ない風を装い土方の手が沖田の背に回される。
 負の循環だろうが何だろうが、土方にとって沖田に気にかけられているとよくわかる現状は、決して嫌なものではないのだろう。
 互いに素直になどなれずとも、おそらく沖田だって満更──


2013.7.31.永


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!